会社の「肩書き」から解放されるのが「定年退職」だ。ところが、1~2か月のうちに“毎日が楽しくない”と思い始めるようになる──その“病”の正体とは。
4月に電機メーカーを定年退職したAさんは、妻に促されて自治会活動に参加するようになった。
「妻に伴われて会合に出席しましたが、自己紹介をしようにも自分をどう紹介すればいいのかわからない。結局、勤めていた会社の名前と役職名を言い、仕事の話ばかりしてしまった。ある人が“偉そうに……”と言うのが聞こえました。妻も『他に言うことないの』と呆れていた。1か月くらいはなんとか活動を続けましたが、馴染むことができず、もう参加する気はありません」
“肩書き”を失うショックは思いのほか大きいようで、60代男性の「銀行に老後資金の相談に行ったときに相手に名刺を渡されたが、自分は渡す名刺がない」「再就職の際の履歴書の職業欄に書くことがない」といった体験談は数多い。
「5月病」は新入生や新社会人のものと思われがちだが、そうではない。杏林大学名誉教授の古賀良彦氏はこう話す。
「大きな環境の変化によって自律神経のバランスが崩れてしまうのは、若い人たちだけではありません。定年後1~2か月ほどたって、いわゆる5月病の症状が現われる人もいます。元気がない、よく眠れない、食欲がない、イライラするというのはそのサインです」
仕事のプレッシャーから解放され、悠々自適の生活が始まったばかりなのに、なぜ“定年後5月病”が発症してしまうのか。