「イギリスにはGPと呼ばれる家庭医制度があります。どこか具合が悪くなったら地元のGPをまず受診し、そこから専門病院などへつないでもらう。その人の病歴から生活まで総合的に診ているGPが、自分の患者が認知症かもしれないと気づくと専門機関につなげて診断してもらい、さらに認知症の専門医療が受けられるメモリークリニックにつなげます。
メモリークリニックでは、必要な医療を受けながら、地域で暮らしていくためのサービスやアドバイス『メモリーサービス』が提供されます。認知症と診断されたときから、病気をどう理解し、何を準備し、どう暮らせばいいかまで、寄り添って相談に乗り、情報提供をしてくれるのです。
この『メモリーサービス』の機能を日本の介護保険制度で生かすべく考案されたのが『認知症初期集中支援』です。日本の場合はイギリスのようなGP制度ではないので、認知症で困っている人たちのところへ支援チームが出向く形。チームは、認知症サポート医と看護師を中心に、作業療法士、保健師、介護福祉士など医療・介護の複数の専門職で構成され、多角的にサポートできます」(高橋さん)
日本でも最近、イギリスのGPに近い“かかりつけ医”を作ることが推奨されている。
「日本は基本的に診療所から大学病院まで自由に選んで受診することができますが、医療情報が一元化できないデメリットも。とくに高齢になり、認知症などいろいろな健康問題を抱えるとトータルで診ることが重要になります。
基本的に医師は診療科目を問わず、認知症の基礎知識を持ち、診断することができます。最近は認知症医療の研修を受ける診療所の先生がたも増え、世田谷区をはじめ、診療所と認知症専門病院との連携体制を整える自治体も増えています。高齢になったら、医療の窓口は地域のかかりつけ医に集約することをおすすめします」(高橋さん)
◆その人に会う支援方法をカスタマイズ
実際の支援とはどんなものか。作業療法士の村島久美子さんの仕事は、かなり生活に密着したものだ。
「まずチームとしての重要な役割は、その人の置かれている状況を医療面、生活面から見極めることです。たとえば持病などが認知機能の低下を助長していないか。記憶障害のために受診や服薬が滞っていたり、独居の場合などは脱水状態に気づかずにいたりしないか。また詐欺などに巻き込まれていないか。
そして同じ程度の認知症でも支援のポイントや方法は人によってすべて違うので、生活習慣、職歴、性格などから、“その人”に合わせてカスタマイズします」(村島さん)
たとえば“着替えができなくなった”という家族の訴えも、作業療法士が見ればまだまだ可能性が見えて来る。