「認知症はいろいろな原因で脳細胞の一部が壊れることから始まり、徐々に進行します。外に現れる症状もさまざまですが、大きく分けて2種類あり、その違いを知っておくことがとても大切です。
1つは脳細胞が壊れることで直接的に発症する『中核症状』。記憶障害、時間や場所などがわからなくなる見当識障害、理解や判断力が衰え、何かを行うことがおぼつかなくなる実行機能障害などが代表的。発症の仕方に個人差はあるものの、多くの人に現れ、治すのが難しい症状です。
もう1つは『BPSD(行動心理症状)』。妄想や幻覚、徘徊、暴言・暴力、不潔行為など、さまざまありますが、周囲の接し方や中核症状が発症したときの環境、心理状態で出方が大きく左右されるといわれます。
家族を悩ませ、また一般に認知症の困難として語られるのは主に『BPSD』の方です。一見、合理性のない不可解な言動に見える上、周囲が実害を被ります。
でもこの不可解な言動を丁寧にひも解くと、必ず理由があり、その核になっているのは“できなくなったこと”による不安や悲しみです。逆に、周りの人に認知症のことが理解され、配慮されて本人の不安が和らぐと、『BPSD』が治まることはよくあります」
記者の認知症の母(83才)もそうだった。父の急死で認知症が悪化し、激しい物盗られ妄想が出現して、家がゴミ屋敷寸前になったところから、理解ある介護職に囲まれ、食生活が確保された今の住まい(サ高住=サービス付き高齢者向け住宅)に転居すると、妄想がピタリとなくなり、部屋の中も整然と管理できるようになった。
当初は奇跡のように思えたが、記憶障害は進みつつ、まさに『BPSD』がきれいに消えたのだ。
「身近に接するご家族は、認知症のことを少しでも知り、認知症の親御さんの中で起きていることに思いを馳せることが大切。記憶障害などがあっても、心が平穏であれば、充分日常生活や人生を楽しむことができるのです」
※女性セブン2018年6月28日号