だとすれば、ミステリとはどんな文学なのか?

「例えば意外な真相に驚くということは、自分の視野に入ってて当然のはずの真相に気づかずに、盲点を突かれるということでしょう。ところが昨今の泣けるミステリでは、自分の中にある感情を再確認し、共感できる対象を求める読者も多く、それが主流だと思われるのはちょっと違うと思う。

 確かにそれも一つの楽しみ方ですが、ミステリとは自分の思い込みを覆し、驚きを与えてくれるものだという思いが私の原点にはある。そもそも思い入れに頼った読書では謎は解けませんし、自分自身をなぞることにしかならないので」

 それこそ終章「虎党パズル」では、幕ノ虎ファンを集めたミステリーツアー中、ある参加者を殺めた犯人を、読者もまた殺害現場である〈迷路庭園〉の地図を元に推理できる趣向も。この時、真相を暴いた後のマークの台詞がいい。〈ドウキ、ワカリマセン。スイリ、テガカリ、ナイトデキナイ〉──。

 憶測を排し、事実だけを見つめるフェア精神に満ち、目の曇りを払ってくれるからこそミステリは面白い。そんな原点に立ち帰れる、実は面白おかしいだけでは全くない、まさに奇書だ。

【プロフィール】こもり・けんたろう/1965年大阪生まれ。東京大学文学部哲学科卒、同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。近畿大学文芸学部准教授。1982年「ローウェル城の密室」が史上最年少の16歳で江戸川乱歩賞最終候補となり話題に。1994年『コミケ殺人事件』でデビューし、『探偵小説の論理学』で第8回本格ミステリ大賞、『英文学の地下水脈』で第63回日本推理作家協会賞。著書は他に『星野君江の事件簿』『魔夢十夜』等。訳書も多数。174cm、61kg、B型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光

※週刊ポスト2018年7月20・27日号

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