まして、B29を攻撃するには敵機の前方進路上で待ち構えておく必要がある。そのため飛燕を徹底して軽量化させることになった。本隊の機体は、4門の機関砲を2門にしたうえ弾数も減らし、さらに座席の後ろにあった防弾板も外した。だが板垣軍曹(当時伍長)らの、体当たり攻撃を行う「対空特別攻撃隊」の機体は全機関砲を取り払った。機体そのものが武器だったからである。

 空気の薄い高高度を飛ぶ航空機は、ちょっとした衝撃でも、まるで滑落するように高度を下げてしまう。だから、自らの機体をぶつけてB29を高高度から引きずり下ろし、下で待ち構える第244戦隊の本隊が仕留める手筈だった。

 B29は最大9tの爆弾を積み、11人の乗員が乗り込んでいるので、大型で重く、敏捷性は決して良くはない。しかし、12.7mm機銃12門、20mm機関砲1門を装備するハリネズミのような重武装機であり、近寄れば、凄まじい弾幕にさらされる。しかもB29は厚い防弾装甲に守られている。したがって銃弾の雨が降り注ぐなかを、武器も防弾板も持たない丸裸の機体でB29に突っ込んでゆくのは決死の覚悟が必要だった。

 そして板垣軍曹を含め、わずか4名4機で編成されたこの対空特別攻撃隊は、「はがくれ隊(葉隠隊)」と命名された。

 昭和19年11月24日、飛行第244戦隊は100機ものB29の大梯団を迎え撃った。「はがくれ隊」にとっては初陣だったが戦果を挙げられなかった。だが12月3日、この日帝都に飛来したB29は86機。このときの迎撃戦では飛行第244戦隊は6機を撃墜する戦果を挙げたが、そのうち3機が「はがくれ隊」の体当たり攻撃によるものだった。

 板垣軍曹は、11機編隊の最後尾を飛んでいたB9の前上方から体当たりを試みた。敵機の主翼を吹っ飛ばしたと同時に、板垣軍曹の乗機も空中分解し、彼は機外に放り出されて失神したという。その後どうなったのか。

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