「今は難民として流出した優秀な人材や地元の人間を採用し、医療が自力で根付くようマネジメントするのも私の仕事です。日本のように誰もが医療にアクセスできる環境は決して当たり前のものではないし、シリアでもどこでも、当たり前に思っていた暮らしを一瞬で奪うのが戦争なんです。
私も南スーダンでは平時が戦時に覆る速度を体感し、相当努力しなければ平和は維持できないと思い知らされましたし、純粋に国際貢献に興味を持つ若者の芽を自己責任論なんかで摘まず、きちんと応援してあげるのも、大人の支援だと思う。そして紛争地に住む人々も家族の幸せや平和を普通に願った同じ生活者だということを、本書で最も伝えたかったのかもしれません」
いつか世界は変えられると信じてやまない彼女は、そのために具体的に動けるスキルと情熱を、まっすぐ育んでいける人だった。
【プロフィール】しらかわ・ゆうこ/1973年埼玉県出身。坂戸鶴ヶ島医師会立看護専門学校卒。県内の病院勤務を経て、2003年渡豪。Australian Catholic University看護科卒業後、現地の病院で経験を積み、帰国後の2010年、国境なき医師団に参加。パキスタン、イエメン、南スーダン、パレスチナ、イラクやシリアのIS支配地域等で活動。本書は初著書。「難民や空爆で傷ついた当事者に発信手段がないのなら、私が伝えなくちゃいけない。それが執筆動機です」。154cm、A型。
●構成/橋本紀子 ●撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年8月17・24日号