2014年のイスラエルの空爆で生活基盤を悉く破壊された〈世界一巨大な監獄〉では電気の供給をそのイスラエルに頼り、若者の失業率は実に60%。鬱憤を募らせた彼らの中にはわざわざイスラエル兵が銃を構える境界域で〈パレスチナの解放と自由〉を叫び、自ら撃たれようとする者までいた。
「どんなに傷を治しても、また撃たれに行ってしまう彼らの絶望の深さに対して私たちは何もできず、医療で戦争を止められないなら、ジャーナリストになって止めたいと考えたほどでした。
でもある人に言われたんです、看護師だからできることもあると思うよって。例えば生きる希望を失った患者さんの手を握り、その人が笑えるようになるまで気にかけてあげるだけでもいい。そしてあの時、わざわざ遠い外国から来て手を握ってくれた人がいたなあとか、人の温もりや優しさを少しでも憶えていてほしいなって思うんですよね。
特に教育の機会を奪われ、戦争しか知らずに育った子供たちに人間愛を教えるのは私たち大人の責任ですし、怒りや憎しみの連鎖が次なる戦争を生む以上、未来を担う彼らに負の感情だけを抱えさせては絶対いけない。しかもそれは看護の原点かもしれないなと、個人的に気づかされることも多くて」
現場では〈手術室看護師〉として幾多の困難をくぐり抜け、オペ中に砲撃に遭ったことも。そんな状況でも優先順位を冷静に判断し、物資がなければないなりに前へ進む適応力が、適性としては求められるという。