「魚春」時代の尾畠さん


「15才で魚市場に修業に出ました。だから、高校なんていってやしません。10年ぐらい大分市や兵庫の神戸市の魚市場で働きました。魚屋じゃないですよ、“フィッシュセンター”です(笑い)。20代の半ばで、東京にも出稼ぎに行きましたよ。とび職で3年間。自分の店を開く資金と、結婚資金を貯めるためにね。とび職の経験は、今のボランティアの現場でも生きています」

 28才のとき、別府市内に鮮魚店「魚春」を開業。近所の住民が語る。

「春さん(尾畠さんの愛称)が捌く刺身は絶品でした。お祝い事があると、春さんに注文して。年末には店の前に長い行列ができていました」

 その頃、鮮魚店の前を通学していた女学生に一目惚れして結婚。一男一女をもうけた。

「孫は5人です。21才の孫娘がいちばん上。下はみんな男の子で、下が小学1年生です。孫は大分県内に住んでいるから、時々会っていますよ」

──奥さまは今どちらに?
「5年前に旅に出たんだ。それから連絡は一度もとっていません。仲が悪いわけじゃなく、籍も入ってますよ。生きてるかって? そりゃ生きてますよ、失礼な(笑い)」

 転機は65才の誕生日だった。繁盛していた「魚春」を突然、畳んだ。

「閉店することは、奥さん以外には当日まで内緒でした。誕生日の朝、店頭に『今まで長い間、ご愛顧ありがとうございました』と書いた紙を貼り出したんです。お客さんからすれば、仰天したようです。どうしてかって? 私は15才で働き始めたときから、働くのは65才までにしよう、と決めていたんです。本当に、それだけ」

 お得意さんのところへ閉店の挨拶に回ると、意外な反応が返ってきた。

「自治体の有料ゴミ袋を手土産に持って行ったんですが、どこも受け取ってくれない。それどころか『これまでわが家は、ずっと魚春さんの魚しか食べてこなかった。これからは一体どうしたらいいんですか』と詰め寄られた。もちろん最後はゴミ袋も受け取ってくれたんですが、そこまで愛されていたことに気づいて、本当に嬉しかった」

 その恩を、直接は無理でも社会を通じて恩返ししたい、との思いがボランティアを始めるきっかけになったと話す。

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
リモートワークや打合せに使われることもあるカラオケボックス(写真提供/イメージマート)
《警視庁記者クラブの記者がカラオケボックスで乱痴気騒ぎ》個室内で「行為」に及ぶ人たちの実態 従業員の嘆き「珍しくない話」「注意に行くことになってるけど、仕事とはいえ嫌。逆ギレされることもある」 
NEWSポストセブン
「最長片道切符の旅」を達成した伊藤桃さん
「西国分寺から立川…2駅の移動に7時間半」11000kmを“一筆書き”した鉄旅タレント・伊藤桃が語る「過酷すぎるルート」と「撮り鉄」への本音
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱親方と白鵬氏
旧宮城野部屋力士の一斉改名で角界に波紋 白鵬氏の「鵬」が弟子たちの四股名から消え、「部屋再興がなくなった」「再興できても炎鵬がゼロからのスタートか」の声
NEWSポストセブン
環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(22)
《不敵な笑みでテロ組織のデモに参加》“環境少女グレタ・トゥンベリさん”の過激化が止まらずイギリスで逮捕「イスラエルに拿捕され、ギリシャに強制送還されたことも」
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン