忙しい合間を縫って何度もパクトンチャイを訪ねるなど、鈴木さんはなぜここまでカンヤダという女性に肩入れし、助けようと奔走するのか。
「助ける、というのとはちょっと違う。好奇心です。実は宮崎駿に関してもそうだったんです。この人が将来、アカデミー賞をもらうだろうなんてカケラも想像しないで、一緒にいて楽しいし、この人はどうなっていくんだろうって気持ちだけがあった。
『今、ここ』しかないという点でカンヤダは宮崎駿にそっくりなんです。『引退する』って言って、『もう一回映画をつくりたい』って平気で言える。同じでしょう? ルールに縛られない、彼らのこの自由さは何なんだろうといつも思う。ぼくはその観察者です」
仕事以外にももう1人、同じような人を抱え込むなんて想像するだけで大変そうだが、カンヤダ本人やコルピさんとのやりとりを話す鈴木さんは本当に楽しそう。「鈴木さんが人を呼び寄せるんだよ」と宮崎さんは言うらしい。
連載終了後の4月に亡くなった、高畑勲さんへの思いを「エピローグ1」として書きおろした。「エピローグ2」は、「その後のカンヤダ」。紆余曲折の末、カンヤダのために、コルピさんが今年6月、バンコクにオープンさせた『メイのレストラン』(注・メイはカンヤダのタイでの呼び名)はとりあえず大成功を収めているそうだ。彼らの物語は、今も続いている。
【鈴木敏夫(すずき・としお)】1948年愛知県生まれ。徳間書店に入社し『アニメージュ』編集長などを経て、スタジオジブリに移籍し、映画プロデューサーに。スタジオジブリ代表取締役。近著に『禅とジブリ』がある。現在、金沢21世紀美術館で「スタジオジブリ 鈴木敏夫 言葉の魔法展」を開催中(~8月25日まで)。『南の国のカンヤダ』に関する展示もある。
■取材・文/佐久間文子(文芸ジャーナリスト)、撮影/五十嵐美弥
※女性セブン2018年6月21日号