◆70年分の過去が呼び覚まされた
〈カンヤダは、過去を悔やまず/未来を憂えない/いつも“今、ここ”を生きている〉とあるように、彼女は過去を恨む暇もないほどに今を生きていた。そんな彼女に商売をさせようと、鈴木氏は現地での相談・交渉役をATSUSHI君に依頼。しかし物件探しに奔走した彼に何の報告もなく彼女は母親とレストランを始めてしまう。そうかと思うと洪水に見舞われた被災地に物資を送ったりもした。
ベネチア生まれでアニメーションの仕事をし、〈みんな貧乏なのに幸せそうだった。それが人間の暮らしだと思ったんです〉と言って今はタイに拠点を移した25年来の友人〈コルピさん〉によれば、〈自分が貧しいのに、他人の面倒を見ようとする〉カンヤダは典型的なタイ人らしい。
「そのコルピさんが自分の事業そっちのけに手伝ってきた店に、実は今、肝心のカンヤダがいないんですよ。そのレストランは『メイの店』といって、店自体は大盛況なんだけど、バンコクは息子を育てられる環境じゃないと言って、田舎に帰っちゃった……。それでもいいと思わせるのが最大の謎で、〈出会ってしまったんだから、しょうがない〉というのが、僕の人生哲学なんです(笑い)」
以来、鈴木氏は何の縁もなかったタイを度々訪れ、特にパクトンチャイの想像を絶する美しさは、自分を見つめる好機になったとか。