「例えば自分は学生運動にどう関わり、どんな思いで仕事をしてきたか、70年分の過去が一気に呼び覚まされるんです。
タイと現代日本で特に違うのが時間の流れ方。時間には主観的時間と社会的時間があるという寺山修司の文章がきっかけで、自分は自分の時間を生きたいと願った日のことがまざまざと蘇ったりして。そんな何者も侵しえない時間をカンヤダや宮さんは生きていて、僕らが書物で得る知識を彼らは体現し、そこから全く新しい考えを生んでいける。安易な近代批判や回帰ブームとは次元が違う。
幸い僕は近代合理主義の高畑勲と前近代の宮崎駿がせめぎあう姿を見てきたからね。どんな時代にも人と人がせめぎあってこそ面白い何かは生まれると信じているし、彼女の物語は今こそ日本人に必要だと思って、この事実とも虚構ともつかない小説を書いたんです」
彼女の物語は決して遠い国の御伽噺ではない。あくまでも具体的な今を生きる強さこそが私たちを魅了し、それもこれも、鈴木サンのお節介のおかげである。
【プロフィール】すずき・としお/1948年名古屋市生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、徳間書店に入社。『週刊アサヒ芸能』等を経て、『アニメージュ』時代には宮崎駿作『風の谷のナウシカ』連載を担当。1984年これを映画化し、以降プロデューサーとして活躍。1989年スタジオジブリに移籍し、代表取締役社長を経て、現在は代表取締役。藤本賞、芸術選奨文部科学大臣賞等受賞多数。近著に『禅とジブリ』。FM東京「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」も好評放送中。163cm、65kg、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2018年9月7日号