◆変わった経営者
千葉県の海浜幕張駅に近いスタートトゥデイ本社ビルに入ると、いたるところで現代アートが目に入る。前澤氏は国際的な現代アート・コレクターとしても有名で、サザビーズのオークションでは、ジャン=ミシェル・バスキアの絵画を1億1000万ドル(約123億円)で落札し、大きな話題となった。私生活では女優・剛力彩芽との交際でも世間を騒がせている。
イーロン・マスクも常識破りの変わった経営者だが、前澤氏も変わっていて、それは若い時からだったようだ。
千葉県鎌ケ谷に生まれ、早稲田実業学校の高等部に入ったものの2年生になると欠席が増え、代わりにバンド活動に熱中していく。練習のためのスタジオ使用料は建築現場などのアルバイトで稼ぎ、新宿のライブハウスで演奏する──そんな高校生活を続けた。
高校卒業後は大学には行かず、バンドのドラマーとしてメジャーデビューもしている。その頃、海外のレコードやCDをカタログ販売するビジネスを自宅で始めるとこれが成功。バンド活動よりビジネスに情熱の軸足が移っていった。
間もなくバンド活動は止め、独学で経営とインターネットを勉強し、カタログ通販からネット通販に進化。そのネット通販で彼が好きだったアパレルも扱うようになった。地道な営業活動でブランドに営業をかけ、ネット通販への参加店を増やしていく。これがZOZOTOWNの原点だ。
◆6時間働けばいい会社
スタートトゥデイは前澤氏というワンマン社長の下で、イエスマン社員ばかりかと勘違いするかもしれない。
だが、そうではない。前澤氏はチームプレーを重視する経営者で、「自分だけがよければいい」というのが大嫌いだ。スタートトゥデイは基本給とボーナスが従業員一律で、違うのは役職給だけという点にも表れている。
働き方改革と長時間労働が昨今話題になるが、スタートトゥデイは残業ゼロどころか「6時間労働制」だ。短時間で最高のパフォーマンスを上げることを目指している。
前澤氏が有名な米国の画家の絵画を約62億円で落札したとき、社内のアート好きの社員たちから「ぜひ、見たい」と声が上がった。すると年末に開催された社員総会で、会場にこの絵画を展示してお披露目し社員たちを喜ばせた。