国内

かぼちゃの馬車だけじゃない 不動産「情弱ビジネス」の危険性

家賃保証を信じてアパートやシェアハウス経営を始めたが

 シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社スマートデイズと、そのオーナーへの融資を積極的に行ってきたスルガ銀行による、初心者オーナーに返済困難な負債を負わせるビジネスは、特殊な事例ではないと不動産関係者はいう。決して弱者ではなかったはずなのに、情報に疎かったことから窮地に追い込まれる不動産業界における「情弱ビジネス」について、ライターの森鷹久氏がレポートする。

* * *
「あんなの単なる情弱(情報弱者)狙いのビジネスですよ。あんな物件で年利6%なんてまともな投資家は買わない。貧乏人ではないが多少カネはある、余裕はあるという人たちが次のターゲットになっただけ」

 新宿区内のカフェで取材に応じてくれたのは、かつて投資用不動産マンション販売会社に勤めていたという秋本司氏(仮名・40代)。秋本氏が指摘する「情弱ビジネス」とは、現在大きな問題としてニュースなどで取り上げられている、静岡県沼津市に本店を置くスルガ銀行、投資用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズらが行っていた投資ビジネスについてである。

 簡単に振り返っておくと、スマートデイズが運営・販売してきた投資用の「シェアハウス」は、部屋は狭いが、ベッドなど家財道具などが一通りそろっている物件で、自己資金がなくとも、もしくはわずかでも入居できるというのが最大の魅力だった。敷金や礼金、保証人も原則必要なし、普通の賃貸物件に入居しづらい、カネのない若者たちが主な利用者として想定されていた。

 シェアハウス自体が「弱者」のために用意されたものであることは世間に知られるところとなっているが、そのオーナーも弱者ではないけれども、決して強者ではない。年におよそ6~7%の利益が得られる、といった触れこみで、多くのサラリーマンや自営業者らがスルガ銀などからカネを借り、物件を買っていた。実際にその利益が得られれば大成功だったのだが、不動産オーナーとしては新米ばかりだった彼らは、利益どころかマイナスをどう補填するかに追われるようになった。

「被害者の多くは預貯金の少ないサラリーマンや、高齢者です。いずれも日々の生活、老後の生活人不安があるという人々。彼らは多少カネを持っているも“不安な人々”だから、狙う側としては、カモがネギ背負って歩いているようにしか見えないでしょう」(秋本さん)

 なぜ、不動産について慣れていない人たちがオーナーになる決断をできたのか。物件の運営や管理はスマートデイズや下請けの業者が行い、万一入居者がいなくても家賃保証まで行うから決して損はしない、というシステムを説明されたからだ。この「サブリース形式」と呼ばれる方法で、物件を買いさえすれば、あとは半ば自動的に利益が転がり込んでくる、という夢のようなシステムに見えたのかもしれないが、家賃保証分の支払いが停止されるとオーナーに一方的に告げられ、無理やウソが一気に顕在化したのである。

 投資としての不確かさだけでなく、「かぼちゃの馬車」に関わる事件では、スマートデイズなどの担当者が、オーナーの預金残高などを水増しし、その数字を銀行に報告することで、不正に融資を引き出していたのがポイントだと言われている。たとえば、預貯金が300万円のオーナーであっても、そこに「3」をつけたせば預金額は3300万円になり返済能力ありと判断され、より多くの融資金を得ることができる。

 非常識だが、より多くのカネを借り、物件を多数持って利ザヤを大きくすればカネは返せるのだから問題ない。そんな認識が、銀行やオーナーにもあったはずだと、前出の秋本氏は断言する。

「投資家に、返済能力以上のカネを借りさせる(オーバーローン)ことを、我々は”フカす”と表現しますが、この“フカシ”は中小の(不動産)販売業者ならどこでもやっています。というか預貯金の書き換え(改ざん)や銀行側との調整も、はっきり言ってどこでもやってます。スルガ銀行だけじゃない。神奈川のX銀行、都内だとY信金なんかも。わずか数年前まで、スルガ銀行は業績が伸びているとして金融庁からも“素晴らしい”とお墨付きをもらっていたほどの優良地銀でした。グレーなことをやっても業績を伸ばせば認められれば、それは“善”だったわけで…」

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン