シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる疑惑に対して理解を示しながら、秋本氏は「自分たちは違う」ことを強調する。しかしその態度は、不正を決してしないという意味ではなく、もっと大きな仕掛けをしているから、ひとつひとつは似た案件に見えるかもしれないが、全体としては利益をもたらしているから関わりがない、という驚くべき自信からきていた。
「俺らは、もっとまともな物件回して食ってきたんで。あんな条件のシェアハウスなんかで投資が成立するなんて考えたこともない。客だけじゃなく、僕らだって倒れる。みんな、いつかハジけるの はわかってて、でも辞められなくてやっていた、という状況でしょう。わかって ないのはオーナーさんだけで…」
秋本氏のいうような「フカシ」、そして銀行側との調整は、不動産業界では平然と行われてきたことと話す銀行関係者、不動産関係者は確かに少なくない。九州の地銀関係者もぼやく。
「スルガ(銀行)さんは地銀の中でも超優良地銀という評価でした。でもやっていることは”そういうこと”だと誰もがわかっていたはずです。関東でも大手地銀が怪しい投資事案への融資基準を緩くしたり、我々も地元の不動産業者、建設業者と手を組み、返済能力に疑問の残る若い家族に、住宅建設目的の融資を増やしました。サブリースでいえば、高齢者向けに投資用アパートの建設を勧める大手業者の例がありますが、もちろん我々がカネを貸し付けています。パンクすること、社会問題化することは割と多くの人が気が付いていましたが、短期的な業績アップという目の前にぶら下がったニンジンの前に、誰もまともな判断ができなくなっていたのだと思います。」(九州の地銀関係者)
実際に、都内のシェアハウス物件の販売に関わったという不動産仲介業の男性も、驚くべき証言をする。
「郊外にある狭くて古く、不人気のアパートを一棟買い、フルリノベーションして貸し出す物件を扱ったことがあります。でもね、(入居者が)入るわけがないんです。入ったとしても、敷金礼金すら払えず、身元のしっかりしていない入居者も多くてトラブル続き。部屋が新築でも、立地や条件を考えると割高な物件ばかりなんですよ」
あるオーナーから貸したいと相談を受けた物件は、不動産事情に疎いことにつけ込まれたあとがみえるものだった。
「オーナーさんが“一億円で買った”とおっしゃる、都内M区の低層マンションなどは、どう考えても一億の評価はつかない物件でしたね。融資を受ける際にも、物件の評価額が不正に吊り上げられているのだと思います。評価の低い場所に物件を建てて、割高な価格で販売する業者は、後を絶たない。当然入居者が満杯になることはなく、収益化は期待できなくなりますから、オーバーローンで借りたカネは返せなくなり、結局泣きを見るのはオーナーさんだけという構図。確かに情報に疎いオーナーさんを騙した形の、ほとんど詐欺と言ってよいような販売業者は目立ちますが…。彼らもそうしないと食っていけない」(不動産販売業の男性)
常に弱いものから順に身ぐるみはがされていくのが、弱者ビジネスの基本である。この場合の弱者とは、情報弱者のことだ。弱者ではなかったはずの人も、情報に疎かったために簡単に転げ落ちることがある。これまでも、先物投資や原野商法、マルチまがいなど情報弱者を狙ったビジネスが盛んに行われてきた。スルガ銀行で浮上したのは、舞台を変えた“次の情弱ビジネス”が始まろうとする、しるしに過ぎない。