尊厳死宣言公正証書
「尊厳死宣言に家族の了承を組み込む場合もありますが、公証人には、本当に了承しているかどうかの確認義務はありません。まさか嘘をつくということはないでしょうが、本人が納得してもらっていると感じていても、家族はそう認識していないこともある」
前出の北村氏も、本人と家族の考えにズレが生じる場合があると指摘する。
「絶対に回復の見込みがないという状態の場合のみに認められるのが尊厳死です。しかし、家族が“まだ助かるかもしれない”と望みを捨てられないことがある。それこそ機械につないででも生き永らえさせておけば、もしかしたら近い将来画期的な治療法が見つかるかもしれないという希望を抱く人もいます」
病床にある人の年金額と、治療にかかる医療費との兼ね合いを計算した上で、家族が延命を希望するという耳を疑うようなケースも存在するという。
◆家族と思いがすれ違う
当初は意思統一が図れていても、いざ死期が近づくと、家族の心境に変化が出てくることもある。
本誌・週刊ポストで2016年5月から翌年1月まで『いのちの苦しみが消える 古典の言葉』を連載した田中雅博さんは、僧侶であり、内科医だった。68歳だった2014年10月に、ステージ4b(最も進んだステージ)の膵臓がんが見つかり、末期がん患者でもあった。雅博氏の妻で自身も麻酔科医の貞雅(ていが)さんが話す。