さらに、ネット上で炎上してしまったことで、なりすまし犯以外のネットユーザーらも面白おかしく騒動に加担している。「なりすまし」犯よりも無責任と言えるかもしれない彼らは、誤った情報を拡散し、大河原さんの人格を攻撃する。大河原さんを名乗る「成りすましアカウント」は、本稿執筆時点でも未だに更新され続けている。すでにトラブルから十年経っているにも関わらず、である。彼らは無罪だろうか? いや、そんなはずはない。
たとえば、芸人のスマイリーキクチ中傷事件で逮捕された人物たちは、いずれもネット上の情報を鵜呑みにし、拡散していた。最近では、ツイッターのリツイートは、名誉毀損だと認められる可能性が高いと見る専門家もいるほどだ。これらに関わる加害者たちは、ネットではない場所では、同じような言動はしないだろう。リアルの世界で憚られる人を貶める行為は、ネットであろうとやっていけないのは当然だ。数が多すぎて対策が間に合っていないのが現状だが、技術の進歩によって、ネットの世界をならず者の世界にしないための方法は生まれるだろう。
「今も私の名前で検索すればたくさん情報が出てくるんですか?…もういいんです。無視するしかない…」
柔和で温厚、人のよさがにじみ出るような風貌の大河原さん。視線を落とすと力なくうなだれたが、右手はしっかり、強く握られていたのを筆者は見逃さなかった。