乳がんと言われたときも、俯瞰していた。2004年、樹木さんは映画の出演を依頼されていた。撮影はタイ。12月24日まで撮影し、26日から孫を呼んで、一緒にプーケット島でのんびりする計画だった。しかし、乳がんが見つかり、映画出演も、孫とのリゾートもキャンセルした。
すると、12月26日、スマトラ沖地震が発生。孫と過ごすはずだったプーケット島はもちろん、東南アジア全域に大津波が押し寄せ、多数の犠牲者を出した。「もし、孫に何かあったら取り返しがつかなかった。がんになってよかった」
樹木さんの考え方は、とても多面的だ。単に前向きとか、楽観的というのではない。樹木さんは一見、不幸な出来事も不幸一色ではなく、幸せな出来事も、いいことばかりではないということを経験的に知っていたのだと思う。
がんになった人生とがんにならなかった人生、華やかな美人女優とそうでない女優、どちらが損か得かなんて、単純には言い切れないのだ。
年が明けた2005年、彼女は乳がんの手術を受けた。このときのエピソードもおもしろい。医師に乳房の全摘手術と温存手術があるが、どちらを望むかと聞かれ、「先生は、どの手術がやりやすいですか」と聞き返した。医師が「全摘」と答えると、「じゃ、やりやすいようにやってください」