向島では近年、島外へ移り住む住人が増加し、空き家が1000軒以上ある。耕作放棄された果樹園も目立ち、逃亡犯が“潜伏しやすい”環境が整っていた。
〈10日の夜に、山の近くを通って、2件目の空き家を見つけて、24日までの2週間潜伏していました〉
島内では戸締りをしていない民家も多く、窃盗は容易だったことが窺えるが、手紙には、その行為への罪悪感は綴られていない。潜伏中の食事について、平尾受刑者はこう明かす。
〈そうめん、米、さば缶、こんにゃくゼリー、干しいたけ、粉末コーヒー、2Lのお茶、もち、冷凍の魚、などで2週間生活していました。賞味期限は9割の物が切れています。一番ひどいのは、2001年に切れてた物も。(中略)食べないとどうしようもないので、火を通して食べてました。腹痛は1回だけありました〉
◆〈潜伏先に警察が入って来た〉
逃亡中、警察の捜査網は拡大し続けた。広島・愛媛両県警が投入した捜査員はのべ約1万5000人。向島全域を捜索し、島から出る全ての道路で検問を続けた。
結果、島内の各地で大渋滞が発生。外出を控える住民も多く、小学校の登下校時には保護者の送迎車でグラウンドが埋め尽くされた。そんな中、彼が潜む空き家にも捜索の手が伸びる。