平尾受刑者の手紙

 大井造船作業場は全国に4つある開放型矯正施設のひとつで「塀のない刑務所」とも呼ばれる。居室に鉄格子はなく、施錠もされていない。そのため、凶悪犯や薬物常習者ではないなど、複数の条件を満たす模範囚を入所対象としている。

 平尾受刑者は約120件の窃盗罪と建造物侵入罪で懲役5年6月の判決を受け、2015年から服役。昨年、大井造船作業場に移った。

 2020年1月に刑期満了を迎える予定だった平尾受刑者だが、4月8日夜、作業場の寮の窓から逃走した。民家から盗んだ乗用車を走らせ、道路で結ばれた離島の向島に向かい、無人の家屋に潜伏。その後、瀬戸内海の尾道水道を泳いで本州側へと渡り、逃走を続けた。

 身柄を確保されたのは同月30日、向島から西に65km離れた広島市内だった──。

 平尾受刑者は脱獄の理由について、〈当時の動機や目的などは何点かあります〉と前置きしながらこう綴っている。

〈【1】3月と4月の規律違反で全てを失ったこと。【2】2月のはじめに足を痛めて気持ちが病んでいたこと。【3】規律違反で当時の自治会長との関係が悪くなっていたこと。【4】職員から「他のやつが許しても俺は絶対に許さんからな。覚えとけよ。」と言われたり無視されたりしたこと(規律違反が原因)。【5】規律違反は誰もが日常的に行っていて、日に日にエスカレートしていました。「みんな大井を刑務所ってこと忘れてるな」と感じ、大井全体をリセットするにはあの方法しかないと考えてしまったこと。【6】職員と一部の受刑者が親密な関係になり職員が正常な判断ができていなかった。【7】いじめのような指導や下の立場の受刑者が自分の時間を持てず奴隷のような扱いを受けていたこと〉

 同作業場は受刑者内で作る“自治会”が存在し、会長、副会長、新人訓練係など序列があった。平尾受刑者は自らの規律違反行為で序列を下げ、絶望。人間関係に疲れ果て、大井の体制にも限界を感じたと告白する。

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