角界関係者の様々な思惑が交錯している。ただ、それらを抜きにしても、稀勢の里に現役続行を願う声はやまない。それは“稀勢の里が引退した後の大相撲”に、明るいビジョンが全く持てないからだろう。
「日本人横綱がいなくなれば、今以上にモンゴル勢が土俵を席巻し、面白い相撲が見られなくなるのではないか」(同前)
そんな懸念の声が数多く聞こえてくる──。
右膝の手術をして休場した横綱・白鵬は、本場所が始まってからも福岡にとどまっていた。稀勢の里が3連敗を喫した翌朝、福岡市中心部から車で40分ほどの篠栗町にある宮城野部屋の稽古場を取材に訪れた。部屋の若い衆は「朝稽古に出るか出ないかは横綱次第です。今日ですか? わからないですね」とそっけない対応だった。
ただ、1時間ほどすると白鵬が稽古場に姿を現わす。空気が一瞬にしてピンと張り詰め、白鵬の内弟子である十両力士の炎鵬(えんほう)と石浦の表情が一気に真剣になるのがわかった。
白鵬はサポーターや包帯はつけていない。柔軟運動を終えると土俵の周りを歩き回り、力士たちに檄を飛ばす。いつの間にか、宮城野親方(元前頭・竹葉山)は姿を消していた。
炎鵬、石浦が土俵に上がって立ち合いの稽古を始めると、そこでも白鵬が指示を出す。自身は四股やすり足、鉄砲などの軽い調整に終始した。