さいとう:私の中にも、他人には言えない思いがたくさんある。子どもの頃から、人が考えないようなことをたくさん考えてきました。でもそれをそのまま作品にしたら、絶対、ウケないであろうことがわかっている。読者もそれを待ち望んでいない。だからこの世界に入って63年、ずっと自分を抑えている。そうやって生き延びてきた。ペンネームの「さいとう・たかを」は別人格。自分を抑えるためにつけた便宜上の名前。
佐藤:孤独な戦いですね。どこかでゴルゴの生き様に重なります。
さいとう:ゴルゴは絶対に人に媚びませんから。媚びるぐらいなら、ひとりを選ぶ。
佐藤:ゴルゴはさいとう先生の分身ですね。
さいとう:最初の頃はそんなこと考えたこともなかったけど、50年も続くと、自分の生み出したゴルゴというキャラクターと自分との共通性がわかってくる。やっぱりね、自分の中にないものは描けない。特にキャラクターは、まったくの想像では描けないんです。
だからどうしても、ゴルゴと重なり合う部分が出てきてしまう。もちろん、全部が重なっているわけじゃないんだけど……。言ってみれば車の両輪かもしれない。ゴルゴ的な部分が自分の中にある価値観だとすると、それだけではダメで、世の中の考え方も見ていかなければなりません。自分の価値観と世間の価値観の両方の車輪があって、ようやくバランスが取れる。
※佐藤優 さいとう・たかを・著/『ゴルゴ13×佐藤優 Gのインテリジェンス』より