若尾文子、渥美マリ、風吹ジュン、関根恵子、秋吉久美子、古手川祐子、原田美枝子などが、自身の代表作となる作品で愛人役を演じ、その妖艶なイメージを確立した。
ちなみに、同時期、歌謡曲でも愛人をテーマにした作品が数多くヒットした。こちらは「日陰の存在」として描かれ、女の立場からその哀しさを歌ったものが多い。箱崎晋一郎の『熱海の夜』(1969年)、テレサ・テンが歌った『愛人』(1985年)などが代表的だ。
そんななか異彩を放つのが、『月曜日のユカ』(1964年)で加賀まりこが演じた主人公。会社社長をパトロンに持ち、さらに日替わりで多くの相手と寝て、男を翻弄する奔放な若い女だ。「妾」とも「愛人」とも異なる。
「背景には台頭しつつあった60年代ポップカルチャーがあり、加賀が演じたのは新しい時代の新しいタイプの女性です」と、作家でコラムニストの亀和田武氏は話す。
愛人を巡る時代の風俗を素材にした映画もあった。「愛人バンク」の人間模様を描いた『夕ぐれ族』(1984年)だ。愛人という記号が性風俗産業の商品と化したことを物語っている。