テストドライブを行ったのはエンジンを発電に用い、電気モーターで走るシリーズハイブリッド式のエコカー「ノートe-POWER」。ミニカーのマーチと同じ「Vプラットフォーム」と呼ばれる車台を使う低コスト型のモデルで、本来は走りなどどうでも良いというバジェットモデルである。今年7月に小改良を受けていたのだが、果たしてそのノートe-POWERは2016年に初登場した時とは別物のような仕上がりになっていた。
最も驚かされたのは高速直進性の良さで、国産サブコンパクトカークラスのライバルと比較しても突出していた。高速直進性というのは、ハンドルを切らないときに真っ直ぐ走る性能のことを指すと思われがちだが、実は違う。
公道は高速、一般道ともド真っ直ぐな道路はほとんどないし、排水性を確保するために微妙に傾斜が付けられているものだ。路面が古くなってくるとアンジュレーション(路面の波打ち)や大型車がつけたワダチなどの外乱要因が増え、破損箇所なども出てくる。そこを真っ直ぐ走るためには、スキーで言えば谷足に体重を乗せて滑らかなシュプールを描くようなドライブフィールをドライバーに伝えることが重要になる。クルマづくりでシミュレーション化ができないファイナルチューニングのノウハウがモノを言う世界である。
ノートe-POWERの直進感のつくりは見事であった。制限速度が緩和された新東名の追い越し車線くらいの速度域でも、はるか前方の目標にクルマが引き寄せられるようなフィールである。新東名の随所にある谷間の横風にも強く、いつの間にこんなハイウェイクルーザーになったのかと驚いたものだった。
直進性を磨いたことは、ハンドリングにも好影響を及ぼしていた。九州山地のど真ん中、宮崎の椎葉や高千穂の長大なワインディングロードを延々と駆けてみた。ノートe-POWERは基本的にアンダーステア(前輪が切れる量に対してクルマの曲がる量が小さいこと)がかなり強め。通常ならスポーティもへったくれもないところなのだが、ノートe-POWERの場合、そこからさらにハンドルを強引に切ってもタイヤグリップが失われないため、結果として荒れたワインディングロードもかなり勇ましく走れてしまうのだ。
前述のようにノートはさらに小さなクラスのマーチと同じ車台で、同じサブコンパクトクラスのルノー「クリオ(日本名ルーテシア)」よりもクルマのポテンシャルは低い。実際、不整路面での乗り心地など弱点も少なくない。
e-POWERがデビューした当初は乗り味全般に難があり、クルマのチューニングを手がける日産の実験部隊のひとりは「試作車が回ってきたとき、これをどう料理しろと言うんだと途方に暮れるくらいの状態だった。今はこれが精一杯」と漏らしたほどだった。
しかし、それから2年の時間をかけて、日産の開発陣はそのノートe-POWERに、単なる街乗りグルマにしておくにはもったいないくらいの味を与えた。かつて、初代「プリメーラ」や8代目「スカイライン」などで勇名を馳せた日産の実験部隊の実力が落ちていないことをうかがわせる一幕であった。
だが、現実の話をすると、ノートの普通のモデルをそういう仕立てにしても、日産はファントゥドライブなクルマを作るメーカーだというイメージを醸成することにはほとんど役立たないだろう。