佐藤:結局、国家総動員が中途半端なまま、関東大震災以来のカタストロフとなる無差別爆撃で、日本のファシズムは未完に終わる。
片山:日本人は空襲や原爆、地震や津波といった自然災害などのカタストロフとともに生きてきました。そしてカタストロフのたびに、しようがないかと諦めて、それなりに取り返せてきた。ユートピアもディストピアもファシズムも、この国は徹底したものを嫌悪するのですね。ぬるま湯以外はいやなんでしょうね。
佐藤:戦前の未完のファシズムも、平成の中途半端なディストピアもそうした日本の社会構造が生んだとも言えます。私はディストピアが求められる社会には、実は希望があると感じます。
片山:なるほど。逆説的にいえば、きっとそうなのでしょうね。
佐藤:2011年からロシアで放映された『月の裏側』というテレビドラマがあります。モスクワで連続殺人犯を追う警官が1977年のソ連にワープする。警官を続けながら現代に戻る方法を模索する主人公が、ソ連崩壊を経験し、現代に戻ってくる。
片山:面白そうなストーリーですね。
佐藤:実際、大ヒットして続編が作られた。セカンドシーズンでは前作で起きたあることが原因で、ペレストロイカが行われず、ソ連が崩壊していない。
地上にはソ連製のボロいクルマが走っているんですが、空中には飛行船が飛んでいる。紙幣は廃止されて電子マネーが使われている一方、コカコーラも西側のラジオも禁止。KGBが絶大な権力を持つファシズム国家として存続している。
片山:続編はパラレルワールドものになったわけか。興味深い内容ですね。