佐藤:中国の脅威や地政学を考えると、日印連邦は荒唐無稽の話じゃない。しかもソ連領の北海道にはカレーはあるがラーメンがない。その理由は米軍が放出した小麦粉がないから。
片山:アメリカに統治された沖縄に対して、ソ連に占領された北海道という対比もよかった。
佐藤:それに北海道がファシズム国家に取り込まれたらどうなっていたかという実験小説としても読める。
平成ディストピアは、現在の政権が目指すファシズムが行き着いた近未来の社会とも言える。ただ私は平成に描かれたディストピアにはどこか緩さが残っている気がするのですが、いかがですか?
片山:分かります。『橋を渡る』(吉田修一、文藝春秋・2016)にしても徹底的に管理された未来ではない。作家は70年前からタイムスリップしてきた登場人物に「思い描いていたユートピアじゃない。でも、恐れていたディストピアでもなさそうな気がする。(略)熱くもない、ぬるくもない、そんなお湯につかってるみたいな未来……」と語らせている。
◆小説に追いついたプーチン
佐藤:私は、それが日本の戦争体験に起因しているのではないかと考えているんです。みんな太平洋戦争中をひどい時代だったと回顧するのですが、本当にひどかった期間は、実はとても短いでしょう。
片山:そうですね。1944年までは総動員体制に反対する人もいた。一億玉砕が強く叫ばれたのも東京大空襲があった1945年3月から終戦までの6か月間ですからね。