「私自身、年齢的にもこれまで何人も見送ってきましたが、特に都内の火葬場では、係の人の案内に従ってベルトコンベアに乗せられ、ツアーの団体行動をさせられているような印象でした。『貧しい建物』と感じていました。死者を尊ぶ気持ちを持てる弔いができ、私自身も死んだらここで火葬されたいと思える場にしたかったのです」(伊東さん)
伊東さんは、「瞑想の森 市営斎場」をデザインする際には波打つ屋根を「水辺に白鷺のようなきれいな水鳥がふわっと舞い降りた」とイメージしたと明かしてくれた。告別室から火葬炉前、待合室、収骨室へという動線は変えようがないため、「その動線の上に屋根を断続的にかけていくという手法」を用い、外観に「白鷺のような水鳥」のイメージを生み出したという。
前述のとおり「瞑想の森 市営斎場」の手前は池、背後は里山だ。「川口市めぐりの森」も池を含む緑豊かな公園と共にある。
「自然に抱かれ、大地に根が生えるように浮かび上がり、地球の波動を感じさせるようなイメージの屋根に、命への思いを重ねました。私は特定の宗教を持ちませんが、命は大地から生まれ、天へと消えゆくというふうに思い描き、それを形にしたのです」(伊東さん)
「川口市めぐりの森」の屋根の上には樹木を植えた。雨水が、緑から柱内部の樋を通って水面に戻され、一部は灌漑設備の水源として再利用されるなど、建物自体が自然の循環の一部となるそうだ。「死して自然に還る」を意識したという。
そうした考えに至ったのは、1980年代に旅したネパールで目にした光景が根っこにあるからだという。
「カトマンズ郊外の町を散歩していると、簡素な壁に囲まれたハンセン病療養所があり、患者さんたちが歩いているのが見えました。療養所の裏に川が流れていて、河畔で、遺体をまるで焚き火をするかのように焼いていた。遺骨は川に流すのでしょう。亡くなった人を自然に還すのが、日常的なのだろうと思ったんですね」(伊東さん)
ネパールでの光景に近いことを現代の火葬場で再現したかったのだと、伊東さんは言った。土地の風土と溶け合い、快適性に満ちた建物。伊東さんが設計した、そんな火葬場が我が町にもあればと願うのは、私だけではないだろう。
※女性セブン2018年12月20日号