ピースワンコで獣医師をしていた竹中玲子先生(撮影/田中智久)
──「ピースウィンズ・ジャパン」の役員らは、今回の狂犬病問題に関して「人手不足だった」と話しているという。ピースワンコのように、少ない人数で多くの動物を飼育し、破綻する“多頭飼育”のケースは後を絶たない。その背景にはわが国における動物愛護の法整備の問題点がある。
杉本:海外では、保護動物が暮らす施設には、保護に関する規則があり、檻で飼育する場合は、檻の広さなどが決まっています。屋内であれば自然採光の確保と窓の大きさや照明。屋外であれば日陰に小屋を設ける。その小屋は犬がケガをしたり濡れたりしないものにするなど法律に基づいた運営ルールがあります。でも日本においては、「人と動物が共生する社会の実現を図る」ための「動物愛護管理法」が1つしかないうえ、適正な飼養基準となる数値での明確な規制や、ネグレクトの詳細な定義などの文言は一切ないのが現状です。
竹中:動物の避妊・去勢手術や虐待への対策も、遅れています。州によって小さな差はありますが、年に1回しか出産させてはいけないという決まりがある国もあるし、虐待すると法律で裁かれて、動物を飼うことを禁じられるなど厳しい罰則があります。
杉本:ヨーロッパでは、ペットに限らず、畜産動物も含めたすべての動物の健康や幸せを守る「動物福祉」という概念がある。日本ではペットは“愛玩動物”という考えが根強く、動物福祉においては後進国なんです。都合のいいときだけかわいがる人間の気持ちが優先されて、動物がどう感じるか、どんな状況に置かれているかなど、大事なことが置き去りにされています。
竹中:ペットの延命治療も問題です。がんで助かる見込みがなく苦しんでいるのに、毎日点滴をして、体重が半分になってやせこけた状態でも長生きを願う飼い主もいる。つらい治療をやめて、安らかに旅立たせた方がペットにとって苦痛が少なかったとしても、愛するペットを失いたくない、少しでも長く一緒にいたいという人間のエゴで治療を受けさせている人も多い。難しい問題です。
杉本:ペットショップの店員さんの「散歩はさせなくて大丈夫」というセールストークを真に受けて、全く運動させてもらえず、病気になる犬もいると聞きます。ヨーロッパではペットショップで生体が展示販売されていることはほぼないし、保護施設から迎える人が多いので審査をクリアしなければならないため、飼い始めるうえでのハードルが高い。日本ではお金を払えば、簡単に誰でも生き物が手に入ってしまいます。