2013年1月30日、東シナ海で中国海軍艦艇が海上自衛隊護衛艦に対して火器管制レーダーを照射した際に外務省は「極めて遺憾である」と述べた。この時は「極めて」がついたため、よりパワーアップされた遺憾砲ではあるが、「彼の国には呆れ果てた」「報復措置を取る」などと言わない点は大人な対応であり、外交上の儀礼なのだろう。
だがネット上では遺憾砲はすっかりバカにされている。2015年にインドネシア政府が領海内で不法操業をしていたとして拿捕した中国の漁船を爆破する映像を公開した際、「豪快」「最強」などと称賛されていたのが対比的だ。
遺憾砲は政治だけにとどまらない。ゴーン氏が逮捕された時、菅義偉官房長官は「誠に遺憾だ」と述べ、2013年にJR北海道で事故が相次いだ際に菅氏は「甚だ遺憾」と述べた。今年12月6日に発生したソフトバンクによる通信障害についての菅氏のコメントも「極めて遺憾」だった。こうなってくるとこの言葉自体の意味がもはやよく分からなくなってくる。さらに、「誠に遺憾」「甚だ遺憾」「極めて遺憾」、そしてこうした副詞がない「遺憾だ」はどの順番で怒りの度合が強いのか、なんて国語の問題に出てきそうな展開になっている。
国際ニュースでも外国政府の人間が「遺憾の意を表明した」といった記述は出るが、これは日本のメディアが意訳したものではないか。英語ではregrettableという表現になるが、どうもピンとこない。「残念だ」「気の毒だ」のような傍観者的なニュアンスになり、日本の「なっなっ、察してくれよな、オレ、怒ってるんだよ」的当事者性とは異なる。
ちなみに「遺憾砲」は日本政府の専売特許の武器ではあるが、北朝鮮のメディアが発表する「無慈悲な鉄槌」も同様の冗談的な言葉としてネットでは扱われている。前出・ニコニコ大百科では「史上最強の軍事作戦である」と説明されている。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2018年12月21日号