「嘉浩さんは私と同じ京都の太秦で育った人で、出遇う人が違っていれば、私の方が死刑囚だったかもしれません。それで支援する会の会報に投書をしたのがきっかけで嘉浩さんと面会するようになったのです」

 十年前に始まった交流は、やがて一週間に二通も三通も、君代のもとに嘉浩からの手紙が届くような関係になっていく。

「嘉浩さんからの手紙は、十年で千通ほどになります。面会でお別れする時は、アクリル板越しに手と手、そして額と額を合わせて心を合わせる儀式をやるようにもなりました」

 死刑確定後は、死刑囚には外部交通権が制限されるので、それへの対策として嘉浩から君代への獄中結婚の申し込みもあった。幸いに宗教者であり、それまでの面会実績も認められ、君代には外部交通者としての許可が下りた。交流は死刑確定後もつづいたのである。

 それだけに、突然の死刑執行は信じられなかった。嘉浩の母と共に大阪拘置所に遺体を引き取りにいったのも鈴木君代である。嘉浩の父親はこう語る。

「息子が心を寄せていた君代さんに妻と一緒に行ってもらったのです。通夜と葬儀は、京都の真宗大谷派の岡崎別院でおこなわれ、通夜の導師は君代さんにやってもらえました。心から感謝しております」

 その君代のもとに、

「君代さんへの手紙が見つかりました」

 両親からそんな連絡が入ったのは、嘉浩の三七日(みなのか)に当たる七月末のことだ。両親は嘉浩の死後、拘置所から送られてきた荷物の整理をつづけていた。二十三年間の拘置所生活の荷物は、実に段ボール二十五箱にも達していた。両親はその最後に、ある物を発見した。

「鈴木君代様」という宛名を書いた封書が、切手を貼ったまま、投函されずに出てきたのである。死刑当日に嘉浩が出そうとしたものである。まさに絶筆だ。

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