“月9がどんどん変に視聴率をとりにいっていて残念”という意見は、裏を返せば往年の作品を知らない世代であっても“月9”に対するイメージを強く持っており、月9にはこうであってほしいという願望があるということだろう。そのイメージや願望とは、視聴率がとれなくなった以降も恋愛ドラマを主流にしてきたことや、恋愛ものでなくても若い視聴者の感性を刺激する作品を制作しつづけてきたからこそ築けた他のドラマにはない“特別感”だろう。
前作の『絶対零度』や『SUITS/スーツ』は確かに視聴率では回復したが、その“特別感”はあまり感じなかった。それは恋愛ものではなく最近の流行で視聴率を獲得しやすい刑事や弁護士を主人公にした“事件解決もの”だったことによるものも大きいが、同じく月9で“事件解決もの”だった木村拓哉主演『HERO』や大野智主演『鍵のかかった部屋』などの作品と比べると、“個性豊かなキャラクターに囲まれる木村拓哉”というキャスティングの意外性や、EDM系の音楽をド派手にかけるなどの演出面の工夫といった、若い視聴者の感性を刺激するエッセンスが少なかったからだ。
先に述べたように織田裕二×鈴木保奈美というキャスティングは過去を知っているからこそであり、演出面においても海外ドラマをそのまま踏襲するだけではない日本ならではのオリジナリティがあれば若い視聴者はもちろん、視聴者全体の満足感を高めることができたのではないだろうか。
次の月9は錦戸亮主演の『トレース~科捜研の男~』とまたしても“事件解決もの”。だが制作陣は先の『鍵のかかった部屋』のチームだ。視聴率を獲得しやすい“事件解決もの”を軸としながらも、若者の感性を刺激する演出がふんだんに盛り込まれた良い意味で月9らしい作品になっていることを期待したい。
【大石庸平・おおいしようへい】
株式会社eight社が行っているテレビの視聴状況を独自に調査する「テレビ視聴しつ」室長。 “視聴率”や“視聴満足度”をもとに日々テレビ番組を研究している。放送局への番組レポート提供の他、データを使った番組評記事もウェブにて展開中。仕事とは関係なくテレビが大好きで、特にドラマに詳しいドラママニア。内容はもちろん脚本・監督・音楽などスタッフ情報に精通している。