◆「生きづらさ」を感じない人の生き方とは?
──インタビューを読むと、苦手な分野を補うために、いかに頑張っているか、よくわかります。「忘れ物が多い」「マルチタスクが苦手」「電話が苦手」「片付けられない」などに、どう対処しているのか。本に紹介されている「ライフハック(仕事術)」は、誰が読んでも、参考になるところがあると思いました。
姫野:皆さん、苦手分野を克服するために色んな工夫をされています。一方で、当時者やグレーゾーンの方の中には、できないことに悩んでしまって、工夫をすればいいんだという考えに行き着いていない方もいるんです。そういう方の参考になればいいなと思って、新刊で紹介しました。
──発達障害や発達障害の傾向のある女性は、母親とうまくいっていないケースが多い、という指摘も印象的でした。
姫野:子供の頃からできないことが多いので、母親が過保護・過干渉になりがちなんです。その結果、距離が近すぎて、とくに同性同士の母・娘はうまくいかなくなるケースが多いようです。私自身も、大学生で一人暮らしをするまで、母との関係はよくありませんでした。同居している方は大変だろうと思いますが、様々な事情で皆が一人暮らしをできるわけではありませんから、難しい問題です。
──姫野さんの本からは様々な「生きづらさ」を知るともに、「生きづらさ」はなくならなくても、生きていくすべはある、と気づかされます。
姫野:ある時、「生きづらさ」ってなんですか? と言われたことがあるんです。発達障害の当事者ではない人に言われたのですが、生きづらさを感じたことがない人がいるのだと、驚きました。そういう人の話を聞いていると、苦手なことやイヤなことがないのではなく、それらを上手く回避して生きているんですね。対して発達障害や傾向のある人は、真正面からぶつかっていって、粉砕しがち。真面目な頑張り屋さんが多いのだとわかりました。
苦手なことは克服しなければいけない、逆境には立ち向かわなければいけない、私もそうやって生きてきましたが、その考えこそが、自分の首をしめていたことにようやく気付いたんです。できないことはできないと言う、同時に、できることを探す。自分の偏りを見つめて、人の手を借りる。簡単なことではないですが、色んな方の声を通じて、そうしたことを伝えていけたらと思っています。
◆姫野桂/ひめの・けい
1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)