「弊社はこの五年、お客様が減り続けており、そのテコ入れのためにも高齢者を迎える、という方法を取り入れたのかもしれません。…が、現場は疲弊しています。もちろん、高齢者を排除すべきとは言いませんが、もう少し、適材適所という言葉をわかってほしいというか…」(佐々木さん)
人手不足に悩む千葉県内の運送会社でも、高齢者の積極的な雇用を打ち出しているが、同社人事部の男性担当者(40代)は、理想と現実のはざまで頭を抱えているという。
「とにかく人手が足りない運送業界。倉庫内の荷捌きなどいわゆる”軽作業”は若者や外国人留学生のアルバイトにメインで働いてもらっていましたが、穴を埋めるために、そして補助金まで出るというので、当社でも高齢者の雇用に踏み切ったのです」(運送会社人事担当者)
我々にはあまりなじみがないが「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」という、厚労省が定めた助成金制度が存在する。平たく言えば、65歳以上の高齢者を雇う事業主に、年換算で50~70万円の助成金が支払われる(条件付き)というもので、人手不足をより安価に補える、事業者にとってはまさに渡りに船といった助成金制度だ。しかし、この制度により高齢者が増えた事で、現場が疲弊、若い労働力の流出や職場環境の悪化が進んでいるというのだ。
「とにかくなんでもいいから人が欲しい、という会社の方針で、助成金制度を用い、十数人の高齢者を採用しましたが、若者と高齢者では出来る仕事に大きな差が出ます。週末、祝祭日前や深夜など、忙しい時間帯は若いバイトで回し、それ以外の比較的ヒマな時間帯を高齢者で回さざるを得なくなりました。会社は安い労働力として、今後も高齢者の採用を進めていくつもりでしょうが、老人に合わせなければならないのか、という若いスタッフのフラストレーションは爆発寸前です。とある現場では、日本人の若者のほとんどが辞めてしまい、高齢者と外国人のアルバイトしかおらず、オペレーションに苦労している、なんて事例でも出てきている」(運送会社人事担当者)
ほぼ同じ給与で働いているにもかかわらず「高齢者の仕事は楽なのではないか」、そうした不満を持つ若者が出てくるのも当然だろう。ここでも「高齢者に働いてもらうために若者が我慢を強いられる」という事態に陥っているのだ。現役世代も、現場復帰を望む高齢者も、そして外国人労働者も全員が満足できるという、三方が皆笑顔になるような職場環境づくりは確かに難しいのかもしれないが、この国をこの先長く担って行くはずの現役世代の取り分が減ったり、就労意欲を削ぐような仕組みでは、本末転倒というほかない。