国内

奨励される高齢者雇用 管理体制不備で若者にしわ寄せ

若者が働く前提になってきた場所でも高齢者を雇うように

 輝くシニアとして元気に働く高齢者が称賛され、政府も65歳以上の離職者を雇用した事業主に奨励金を支給する制度を実施している。若者とは違う丁寧な接客などが利用者には好評だと話題になったこともあるが、高齢者雇用に対応した労務管理のノウハウがないため、処理しきれない業務のしわ寄せが若者の負担になっている職場が少なくない。奨励金ほしさに高齢者雇用をすすめる事業者がある一方、それに対応しきれない現場の疲弊について、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *
「どうもいらっしゃい…。こちらがね…メニューです。決まったら呼んでね…」

 千葉県北西部にあるチェーン店系のファミリーレストランに入り席に着くと、筆者の父や母よりも高齢とみられる男性が、水と共にメニューを持ってきた。不慣れなのか加齢の為なのかはわからないが、どことなくぎこちない手つきに多少不安感を覚えるものの、若者にはない落ち着いた物腰、業務的ではない柔和な応対には「ほっこり」させられた気分になる。

 大手レストランチェーンの「すかいらーく」は、パートやアルバイト従業員が希望すれば、75歳まで雇用できるよう制度を改めた。背景には深刻な人手不足があるが、高齢社会白書(内閣府・平成29年版)によれば、現在仕事をしている高齢者のうちおよそ57%が「75~80歳まで」「働けるうちはいつまでも」と答えている。「65~70歳まで働きたい」という回答も含めれば、高齢者の9割以上が高い就業意欲を持っていることがわかるように、高齢者の社会復帰は単に人手不足だけが理由ではないのだ。

 就業者不足の穴を補うため、そして高齢者自身の就労意欲を満たすために高齢者雇用を推進する、といえばまさに「ウィンウィン」であるように思えるが、現場からは「早計だ」「安易すぎる」との声も上がる。東京都内の飲食店チェーンで店長を務める佐々木一郎さん(仮名・30代)は、自社が数年前から高齢者の積極雇用を推進してきたことで、店のマネージメントが狂ってしまったと話す。

「本社の方針もあり、うちの店では4~5人くらいの高齢アルバイトさんを雇いました。高齢者雇用促進の報道もあり、お客様からも最初は評判だったんです。ファストフード店らしくない対応はもとより、実際にクレーマーのようなお客様も減りました。しかし、マニュアルなどは、アルバイトが“若者であること”前提で作っていたために、様々なルール・仕組みの見直しを迫られました。休憩時間、シフト、作業内容など…結局、高齢者に働いてもらうために、若いアルバイト、社員がカバーをしなければならない、ということになったんです」(佐々木さん)

 例えばレジ接客、調理や清掃などの業務は、各アルバイトがシフト時間内に交代でやってきた。業務内容に偏りがないよう、さらに言えば、アルバイト全員がどの業務でも対応できたほうが、経営者側としては都合がよい。しかし、そこに高齢者が入ってくると、話は変わる。高齢バイトは重いゴミ袋を持ち上げることはできないし、混雑時のテーブル清掃などはテキパキ働ける若いアルバイトでなければ客の回転率も低下する。若いバイトからは「前より仕事がつらい」などとの不満も漏れ出し、若者から順に店を辞めだす事態にまでなった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
各地でクマの被害が相次いでいる(右は2023年に秋田県でクマに襲われた男性)
「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン