「Bさんは、別にAさんのことをダイレクトに攻撃しているわけではありません。しかし、会話の端々になんとなく違和感というか、モヤモヤしたものが残ると思います。
この会話では、Bさんは正直に自分の考えを話しているだけかもしれませんが、仕事や旅行、結婚や相手の家柄などの話題を持ち出しては、自分のほうがAさんより格上であることを誇示(=マウンティング)しているようにも受け取れます。そして実際、Aさんは、Bさんとの食事会のあとは1週間くらいイライラして体調が悪くなるそうです」
◆攻撃するのは「劣等感」の裏返し
なぜ人は、こうしたマウンティングで相手を攻撃するのか? プライドが高く、「自分は人とは違う存在」と考える傾向が強い人ほど、マウンティングしがちだという。
「Bさんのような人は、『自己愛性パーソナリティ障害』という精神疾患やその傾向が隠れている可能性があります。自己愛性パーソナリティ障害は、自分は人とは違う特別な存在であると考え、人から称賛されて当たり前の人間だと考える一方で、他人に対する思いやりに乏しいことが特徴です。よく『何を根拠に?』と思うほどプライドが高く、相手をこき下ろす人がいますが、そうした人はこの障害を患っている可能性が高いです。しかし実は、彼らの背後には、強烈な劣等感があります。今回の場合のBさんもおそらく劣等感の裏返しで、Aさんに対してマウンティングを行なっていると思われます」
こうした人間関係で悩まされている場合、どう対処したらよいのだろうか? 舟木氏が提案するのは、ストレス・マネジメントの分野で注目されている「首尾一貫感覚」の観点から、問題の人間関係を見直すというものだ。
◆首尾一貫感覚とは?
「『首尾一貫感覚』は、もともと1970年代に医療社会学者のアーロン・アントノフスキー博士(1923~1994)が提唱したものです。戦時中、ナチスドイツの強制収容所に収容され過酷な体験をした女性たちの中には、戦後も生き延び、更年期になってもなお良好な健康状態を維持し続けた人々がいました。博士は、そうした“健康的で明るい”女性たちに共通する考え方や特性を分析して、それを『首尾一貫感覚』と名づけたのです」
この首尾一貫感覚は、大きく3つの感覚からなっている。
【1】把握可能感(=「だいたいわかった」という感覚)──自分の置かれている状況や今後の展開を把握できると感じること。
【2】処理可能感(=「なんとかなる」という感覚)──自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると感じること。
【3】有意味感(=「どんなことにも意味がある」という感覚)──自分の人生や自身に起こることには意味があると感じること。
逆に、過剰なストレスに苛まれている時は、この3つの感覚が低くなっていることが多いのだという。