ただ、データを紐解けば、竹中氏が特異な例ではないことは明らかだ。2004年にカトリック中央協議会がセクシャルハラスメントに関して行なった匿名の全国アンケートによれば、回答者の68%もの人が「教会でセクハラがあると思う」と答えた。しかも「身体的接触の強要」が17件もあった。
さらに取材によれば、その後に中央協議会に寄せられた個別の報告の中には、幼少期の性的虐待のトラウマを抱えた日本人の被害者が、成人後に神父となってペドフェリアの加害者に転じた例も報告されている。被害は連鎖するのだ。
竹中氏は2月6日、第三者委員会による調査を求める書簡を再びサレジオ会と日本カトリック司教協議会宛に送った。その思いを竹中氏はこう語る。
「一刻も早く、日本の実情を明らかにして、名乗りでた被害者に心のケアを施す取り組みを本格的に始めてほしい。そのために私の残りの人生も費やしたい」
批判の矢面に立ってきた教皇フランシスコは昨年末の演説で、「司法当局に出頭して神の裁きに備えよ」と述べ、今も隠れているであろう加害神父を非難した。さらに今月21日から3日間、性的虐待問題を話し合うため、世界の司教協議会の代表者をバチカンに招集している。
その教皇は今年11月にも、来日する意向を明らかにしている。実現すれば実に38年ぶりのことになる。信徒の覚悟の告白を受け止めて、日本のカトリック教会は動き出すのだろうか。またとない好機であることだけは、間違いない。
【PROFILE】広野真嗣(ひろの・しんじ)/1975年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒。神戸新聞記者を経て2002年猪瀬直樹事務所に入所。2015年フリーとなり、2017年に『消された信仰』で第24回小学館ノンフィクション大賞を受賞。