マンハルド神父は「口外したら地獄に落ちますよ」と囁いた
昨年8月、米国ペンシルベニア州の大陪審が行なった調査は1000人以上の被害を突き止め、ドイツでは9月、研究機関が3600人以上の被害者の存在を明らかにした。年末になると再び米国のイリノイ州で、検事総長が少なくとも500人の聖職者が子供への性的虐待を行なっていた疑いを示す予備調査を発表するなど収束の気配はない。
そもそもカトリック世界に強い批判が巻き起こるきっかけとなったのは2002年、ピュリッツァー賞を受賞したボストン・グローブ紙の調査報道である(映画化作品『スポットライト』はアカデミー賞受賞)。病的な小児性愛神父の毒牙にかかった被害者は、じつに130人に上った。
「被害者は自分だけではなかった」と受け止めた信徒たちが声を上げ、サンフランシコ、シアトルなど全米各地に飛び火し、さらに海を渡ってポーランド、アイルランド、オーストラリア、ドイツと欧州各国でも燎原の火のごとく被害報告が広がった。
被害に遭った少年や少女はトラウマを抱えるケースが少なくない。成人した後も健全に対人関係を育むことができず、結婚や育児の障害をきたして人生を狂わせる。加えて応じてしまった自分を責め、訴え出ることもできない孤独に苛まれ続けるケースが実に多い。ペドフェリアは極めて深刻な犯罪なのだ。
◆司法当局に出頭せよ
見逃してはならないのは被害が拡散した原因である。前出のペンシルベニア州の報告書には「告発や情報は、加害神父をかばい、教会組織を傷つけることを望まない教会の指導者によって“見て見ぬふり”をされてきた」と記されている。
この隠蔽の構造は、各地で公表された報告書に驚くほど共通する。このため次第に批判の矛先は、自浄能力を持たない指導者とその頂点にいるローマ教皇に向けられるようになってきた。
ペドフェリア騒動が、カトリック教会をその“頂点”から揺らし続けている中、この災厄とは無縁であるかのように理解されてきた国が、日本だ。
信徒が人口の5%にも満たない日本でこの問題は、「他人事」と受け止められ、噂はあっても、まともに調査・公表がなされてこなかった。しかも、性犯罪には2次被害のリスクもある。当事者が名乗り出るのも、簡単なことではない。
◆17件あった「身体的接触の強要」
竹中氏以外にも被害があるのか──。私は東京サレジオ学園に質問状を送ったが、一週間後に返ってきたのは「事実を確認できるかどうかという点も含め調査しなければならない」として、回答を1か月後に先送りする文書だった。
逆にいえば、竹中氏が調査を求めた18年前の時点から現在まで、学園側がその後何一つ調査に着手せず、再発防止のために記録と教訓を継承してこなかった実態をはしなくも浮き彫りにしている。