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「殺してほしい」 笑顔で逝った母が遺した30年分の日記

母の死後に知った笑顔の裏側(イラスト/ico)

「すべての困難は、あなたへの贈り物を両手に抱えている」とは、『かもめのジョナサン』などで知られるアメリカの作家リチャード・バックの名言。苦労や悲しみを乗り越えた先には必ず、希望にあふれた未来がある──。そんな言葉を実感させるエピソードを、32才の主婦Aさんが紹介する。

 * * *
「何してるの?」。病室の扉を開けた私は、あっけに取られてしまいました。なぜって、入院中の母が、DA PUMPの『U.S.A.』ダンスを踊っていたんですから。

「簡単よ。あなたもやろう」。そう言って笑顔を見せる母が1か月後、60才の若さで帰らぬ人になるなんて、その時は思ってもみませんでした。

 母より2才年上で銀行勤務の父はプライドが高く、高卒の母をいつもバカにしていました。気に入らないことがあると、皿を投げつけたり、母を殴ったり…。そんな生活の中でも母は、

「ママは香ちゃんと一緒だから幸せだよ」「大丈夫。怖いことはすぐに終わるからね」

 そう言って笑ってくれました。苦しい生活の中から100万円を貯めた時、母はキッパリと離婚。その後、保険の外交員になり、私を大学まで出してくれました。

 そんな母が不調を訴えたのは一昨年のこと。診察を受けた時は、緊急手術が必要なほど進行した食道がんでした。

 しかし、術後は順調。病室でも苦しんでいる様子は見られなかったのに、突然の死。私はなかなか心の整理をつけられませんでした。

 母の葬式から2か月ほどたったある日、遺品の中から、日記を見つけました。表紙には看護師さん宛に「必ず捨ててください」というメモが貼ってあったのですが、看護師さんに渡す前に急死したようで、遺品の箱に入れられていました。日記には、母の本音が30年分綴られていました。父から受けたDVの恐怖、保険会社で受けたパワハラ、そして、闘病生活のつらさも──。

「痛い、眠れない。看護師さんに背中をさすってもらう」「つらい…つらいよう」「いっそのこと殺してほしい」

 母の笑顔の裏側を垣間見た私は、なぜもっと早くその本音に気づき、支えられなかったのか。母の笑顔を言い訳にして甘えてきた自分への怒りと後悔で、立ち上がれませんでした。

 ふと気づくと、5才になる私の娘が、扉の隙間から心配そうに私の様子を見ていました。生前母がいつも、

「あなたの笑顔が、家庭を明るく照らすのよ」 

 そう言ってくれたことを思い出し、すぐに笑顔を作り、娘を抱きしめました。この時自分も、母同様に家族を笑顔で照らしていきたいと心に決めました。それこそ母が生涯をかけて教えてくれた愛の形だと思うから。

※女性セブン2019年3月7日号

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