「確かに原監督には『お前、こっちの情報を流してないよな?』なんて茶化されましたが(笑い)、他校の情報は当然一切口外しません。そもそも僕が駅伝に興味を持ったのも神野大地君が4年生だった2016年の箱根で青学の強さに感銘を受けたのがきっかけです。ちょうどその頃、關颯人(せき・はやと)、鬼塚翔太といった高校駅伝の花形が東海大にこぞって入学し、彼らの入部動機やスカウティングにも興味を持った。
すると待遇もさることながら、監督の育成方針が入部の決め手になったらしくて。ご自身も教員免許を持ち、部員の競技人生を長い目で見た両角監督の人間教育や、箱根の2日間しか光が当たらない学生たちの日常に、関心が移っていきました」
青学・原監督が同陸上部専任の職員なら、佐久長聖高校教諭から東海大准教授に転じた両角監督は教員。また原氏は箱根必勝、両角氏は野村克也氏の〈人間的成長なくして競技力の向上なし〉を信条とし、学生の競技人生に主眼を置くなど、両者の監督哲学は対照的だ。
「実は東海では規定タイムをクリアすれば何年生でも入部が許され、今回取材した4年生でも2、3年時に入部した子が少なくない。そこまで門を開く大学自体珍しいし、起用に関しても青学のように監督の〈勘〉などに頼らずタイムと実績でフェアに選ぶ大前提を学生と共有している点は、まさに教育者だと思います」
それだけに箱根を目標に励む学生に、〈サポート役をやってみないか〉と監督が切り出す瞬間が切ない。
「4年生への取材は去年の箱根後、改めて個別に行ないました。彼らはバイトもできないし、SからDまで実績がランク分けされる中、下位の学生は合宿費も全額自己負担。最後の箱根で走れないだろうことを、学生本人も薄々気づいてはいるんです。そのモヤモヤを腑に落としてくれるのが監督の言葉であり、実は救いになってもいると思う」