国内

公立中学、食事つき夜の勉強会で生徒の苛々解消し地域交流

桜丘中学校の西郷校長

 いじめが激減、校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベル──。校則を全廃し、先進的な自由な授業に取り組む東京都世田谷区立桜丘中学校が、私立中進学率の高い世田谷区の中で、「越境してでも行きたい」と人気となっている。

◆100円でご飯も食べられる「夜の勉強会」

 同校では放課後にも特別な取り組みが行われている。すっかり日の落ちた17時過ぎ、授業が終わったはずの校内にいりこだしの香りが漂う。

 調理室をのぞくと、学校の近くに住む大人たちが10名ほど集まって、大鍋でみそ汁を作っていた。

 2年前から、桜丘中では月に一度、17~20時の間、生徒に校舎を開放して「夜の勉強会」を行っている。会自体は学年を問わず自由参加で、ボランティアの大人たちによる手作りの夕食付きだ。価格はなんと100円こっきり。同校の西郷孝彦校長(64才)はこう話す。

「子ども食堂を開催する場所を探しているかたがいたので、ここでやりましょうと提案しました。ぼくにとっても、いろんな生徒と話せるいい機会でもあります」

 この日、多目的室に50名ほどの生徒が集った。黙々と勉強する子、タブレットを見つめる子、友達とお菓子を食べておしゃべりする子など、皆思い思いに過ごし、学年の違う生徒たちが一緒に勉強する姿も見られた。

 勉強は原則自習だが、学校に残っていた先生が教えてくれることもある。西郷校長は必ず参加して子どもたちと触れ合う。

 18時になると夕飯の配膳が始まる。この日のメニューは牛丼、みそ汁、小鉢にデザート。生徒たちは100円玉を出して食事を受け取る。1年生の女子生徒が言う。

「毎月、夜の勉強会に参加して、ご飯も食べます。お母さんもお父さんも遅くまで働いていて、いつもは自分でご飯を作っているんですが、ここで食べる方が何倍もおいしい」

 食事の間、西郷校長は生徒の輪に交じって一緒に食事をし、食べ終えたら、各テーブルを回って一人ひとりの名前を呼びながら、「お姉ちゃんの就職は決まった?」などと話しかける。

 現在は子どもの貧困が社会問題化し、母子家庭は30年間で1.5倍になった。共働きが当たり前になり、ひとりきりで食事をとる“孤食”が社会問題となっている。同時に家庭で居場所を見つけられず孤独を抱えたり、両親の不仲に悩んだりする子どもも多い。

 この日、参加した生徒にも、「ひとりで家にいたくない」「両親と弟がけんかするのを見るのがつらい」と、心の内を吐露する子どもたちがいた。

「毎朝、学校に来て、授業や部活を終えて帰る繰り返しでは、誰だって嫌になる。夜の勉強会には、家のことで問題を抱えていたり、自分自身の在り方に悩んだり、多かれ少なかれ事情のある子どもも多く集まります。ここが、そうした子どもたちがストレスやイライラを発散する場になってくれたらいい」(西郷校長)

 運営を手伝うボランティアの大人たちには、「かつてこの学校で自分の子どもがお世話になり、その恩返しをしたい」という元PTA役員の女性や、「この界隈で子ども食堂を3軒営んでいる」という女性も。普段は交わらない人同士の交流がここで生まれ、地域の大人と子どもの絆も強まっている。

※女性セブン2019年3月14日号より一部抜粋 

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン