前田雅英『日本の治安は再生できるか』(ちくま新書、二〇〇三)という本がある。著者は東大法学部卒、東京都立大学法学部長などを務め、刑法関係の各種審議委員なども経験している。
前田は、日本は「危機的な治安状況」になっているとして、グラフや数表を示して警鐘を鳴らす。
例えば、二〇〇一年「人口の0.7%に満たない暴力団員」が刑法犯検挙人員三十二万人中三万人を占め、一割近い。これは「一般の一四〇倍」にもなる。
チェックしてみよう。一般人の検挙人員は三十万人弱だから、全人口比で四百人に一人。暴力団員の場合は、全八十四万人中に三万人だから、二十八人に一人。四百人と二十八人とで「一四〇倍」にはならない。一桁ちがう。
前田は、外国人犯罪について、こんなことを言う。日本の全犯罪者数が八十三万人、外国人犯罪者数が九千人で「11.6%は外国人」。ここでも一桁ちがう。主観で数値を読みちがえるらしい。
筑摩書房に指摘の手紙を出したが、編集者から増刷時に訂正しますという返事が来ただけだ。
二〇一〇年、東京都は「有害マンガ」規制に乗り出した。私は日本マンガ学会会長として、これに反対する声明を出したり、記者会見で発言したりした。その中で、前田雅英が規制を進める審議会委員をやっていると知り、ああやっぱり、と、妙に納得した。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。
※週刊ポスト2019年3月15日号