しかし、生徒自身の意思が尊重され、授業開始のチャイムも鳴らなければ、服装も、授業に出るかどうかさえ自由という桜丘中で過ごすうちに、生徒は徐々にストレスから解放され、自分とは違う多様な他者を受け入れられるようになっていく。すると、決まって中2の夏を迎えるころまでには、いじめが激減する。
もちろん、多感な時期の人間関係のこじれは、ケースバイケース。解決が難しい場合も少なくないが、西郷校長が心がけるのは、「あえて波風を立てる」ことだという。
「人間関係が一度悪くなると修復するすべを知らない生徒がいます。そこで関係を絶ってしまい孤立しがちです。だからあえて簡単な人間関係の波風を立て人間関係を修復する練習をさせるのです。大人が思っている以上に、子どもには“よりよく生きよう”との意識がある。その意識を引き出すことが必要なんです」
西郷校長は今、ある生徒とあえて話をしない。
「相手は関係の修復を望んでいても、“仲直りしたい”と自分からは言えないタイプ。ぼくの方から声は掛けませんが、用事もないのに彼女の横を通りすぎて、“気にしているよ”というメッセージを送ります。すると、休み時間、廊下のいちばん奥の机に座っていたのが、1つ、また1つと校長室に近い机に座ります。言葉にはならない彼女の仲直りしたいという行動です。どうです、微笑ましいでしょう?」
※女性セブン2019年3月14日号より一部抜粋