さらにそもそも論を言おう。国土交通省は大規模修繕工事の目安として「竣工後12年」という数字を出している。この根拠がよく分からない。
私が知る限り、竣工後40年以上も足場を組んでの大規模修繕を一度も行っていない分譲マンションはいくつもある。つまり、鉄筋コンクリート造のマンションは施工精度によって大規模修繕の必要性が異なるのだ。それを一律で定めるのはふさわしくない。
仮に12年に一度大規模修繕工事が必要なら、竣工後の24年後も36年後も48年後にも行わなければいけなくなる。
なによりも、大規模修繕工事には1戸当たり100万円程度の費用がかかる。タワーマンションなら、それが2倍以上になる。そういった費用を永遠に負担し続けるのは、何ともリアリティがない。また、区分所有者が高齢化すると経済的に不可能になってしまう。
しかし、多くのマンションの管理組合では築10年を過ぎると「大規模修繕準備委員会」みたいな組織を作って、その準備を始める。たいてい、管理会社が誘導している。
管理会社は、大規模修繕工事を自ら受注して売り上げと利益を上げたいと考えている。だから、築10年を過ぎると「そろそろ準備を始めたほうがいいですよ」と、管理組合の理事たちに囁きかける。あわよくば自社で受注しようとするレールを敷くのだ。
実のところ、管理会社に大規模修繕工事を発注するほどの愚挙はない。管理会社はそもそも工事部門など持っていない。ほぼ100%外注だ。大規模修繕工事を受注した場合の利益率は普通に3割。うまく行けば5割近くになっている。
だから管理会社は熱心に大規模修繕工事を勧める。では、なぜ国土交通省までもが大規模修繕工事の目安を「築12年」などと示しているのか。
きっと、管理会社の業界団体に天下りポストでも確保されているのだろう。だから管理会社が安定的に利益を上げられるスキームを示している。そこにはマンションの区分所有者や管理組合の利益を保護しようとする姿勢は見られない。
管理組合側にも問題がある場合が多い。マンションの規模にもよるが、管理組合には管理費や修繕積立金という名目で多額のお金が集まる。それをどう使うかを決めるのは理事会。理事会を動かすのは理事長だ。
つまり、理事長は管理組合の予算という巨大な利権を握っていることになる。あまり表立った事件にはなっていないが、管理組合の理事や理事長たちがこの利権を私物化している例は枚挙にいとまがない。