しかし、ベトナム戦争後、韓国の歴代政権はそうした「加害の歴史」に向き合うことはなかった。特に近年は、一党独裁を続けるベトナム共産党自身が、韓国とベトナムの経済的な結びつきを重視するあまり、韓国に謝罪や補償を求める動きを押さえ付けている。韓国の政府レベルでは、自ら過ちを認めて謝罪・補償することもなかった。

 1998年、当時の金大中(キム・デジュン)大統領が訪越した際には「不本意ながら、過去の一時期、ベトナム国民に苦痛を与えたことを遺憾に思う」と表明した。これは韓国大統領がベトナム戦争時の加害について初めて触れた発言とされるが、その後、韓国の保守層から大きな反発を受けている。また、2004年には、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(当時)が訪越時に「心の負い目」と表現。さらに、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2017年11月、韓国とベトナムが協賛しホーチミンで開かれた文化イベントの開幕式で「韓国はベトナムに『心の借り』を負っている」とビデオメッセージを発表した。

 いずれの発言も「遺憾に思う」「心の負い目」「心の借り」など婉曲的表現に終始している。一昨年の文在寅氏のビデオメッセージを、韓国・中央日報は「ベトナム戦争時の加害について謝罪した」と報じた(2017年11月15日付)が、その後私が現地を取材したところ、ベトナム国民には全く届いていなかった。

 そもそも、韓国政府自身がそれらを「公式謝罪」と認めていない。2018年3月23日、チャン・ダイ・クアン国家主席との首脳会談で文在寅氏は「両国間の不幸な歴史に対し遺憾の意を表する」と発言し、虐殺事件について謝罪したと報じられたが、それを打ち消すように、韓国大統領府関係者は「公式謝罪というのであれば、政府レベルの真相調査と賠償が伴わなければならない。その意味では公式謝罪ではない」との見解を出したという。

韓国人男性とベトナム人女性の間に生まれた「ライダイハン」のユンさん(撮影当時推定51歳。2018年2月、ビンディン省で筆者撮影)

 虐殺事件の生き残りの人らやライダイハン、その家族らを蔑ろにし、米朝首脳会談の現場で「南北朝鮮統一」を叫ぶ韓国人。彼らが「今、会いに行きます」というべき相手は、核兵器廃絶を約束しない金氏ではなく、ベトナムの被害者たちではないだろうか。

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