三本締めで第一部が終了、第二部は50分間の「さだまさしオンステージ」で、軽快なトークで大いに沸かせてから歌に入る得意のパターンで『案山子』『雨やどり』『秋桜』『償い』『関白失脚』の5曲を披露。『関白失脚』の「♪頑張れ」の合唱で一階席・二階席の多くをさだファンが占めていることがわかった。
第三部は談春と志の輔の落語に対してさだがアンサーソングを披露する、という趣向。まずは談春が笑いを交えた独特な演出で久蔵の純愛を描く『紺屋高尾』。青木さんのリクエストだというこの人情噺は、落語初体験のさだファンの胸に沁みただろう。大きな拍手に包まれて談春が高座を下りるとギターを抱えたさだが登場、披露したのは「私が生まれたのはあなたを愛するため」と歌う『いのちの理由』。絶妙な選曲だ。
志の輔は『新・八五郎出世』。祝いの会で志の輔がよく演じるネタではあるが、殿様に嫁いだ妹の許へ兄が訪ねるこの噺が始まった途端「そうか!」とガッテン。アンサーソングは嫁いでいく妹の物語を兄の視点で描いた名曲『親父の一番長い日』だ。感動に場内が包まれる。
予定より1時間押して午後9時終演。拍手が鳴りやまない。平成最後の武道館落語公演、大成功だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年4月5日号