◆どの企業にも得意と不得意がある
製造業では新製品を発売する時に、旧製品をうまく処分しておくことが重要だ。旧製品の在庫がゼロになると同時に、新製品の販売が立ち上がるのが理想的であり、これは製造業だけでなく物を販売する業態では常識にして、簡単ではないことだった。
そしてティム・クックが来る前のアップルは在庫管理が稚拙で、新製品を発売する時に旧製品の数百万ドルに上る大量の処分に悩まされ、財務状況を圧迫していた。しかし、新製品でどれだけ利益を稼いでも、旧製品の在庫処理が足を引っ張る実態は、世間の注目を浴びることはなかった。
そもそも、イノベーションに情熱を傾けるジョブズは、在庫管理という“下流”の仕事は苦手で、興味さえ示さなかった。共同創業者のウォズニアックもそうだったし、アップルの取締役会も同じだった。
企業には2種類ある。他社に先駆けてイノベーションを起こす企業と、それを真似て安価な製品で儲ける企業だ。アップルやかつてのソニーは前者であり、マイクロソフトや私が勤めていた松下電器(現パナソニック)など多くの日本企業は後者だろう。
しかし、どの企業にも得意と不得意があるのが当たり前だ。イノベーションもできて、コストダウンも上手いなどという企業はない。それは野球に例えれば、160キロの剛速球を投げて、かつ、針の穴を通す制球力もある投手がいないのと同じだ。