掌典長から宮中祭祀の講義を受けられる美智子さま(時事通信フォト)
高谷が病に伏したりすると、宮中からの使者が高谷の元を訪ねて来るのが常だった。使者の手には、必ず美智子妃お手製のスープを詰めたポットが携えられていた。
高谷が手術をすることがあった。それを伝え聞いた美智子妃は手術前には体調を整えられると野菜中心のスープを、術後は精がつくようにとポタージュをわざわざ作り、届けさせた。こうした気遣いが高谷には何にも増してうれしかったという。それほどの気遣いが宝石のような体験だったという。
昨年5月11日、高谷は94年の人生に幕を閉じた。高谷は最後まで内掌典の伝統継承に気を砕いていた。伝説の内掌典の死は一つの時代の終焉でもあった。葬儀の祭壇には両陛下から贈られた花が飾られていた。高谷の人生を象徴しているかのようだった。
◆児玉博(ジャーナリスト):1959年生まれ。早稲田大学卒業後、フリーランスとして取材、執筆活動。著書に大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)の受賞作を単行本化した『堤清二 罪と業 最後の「告白」』(文藝春秋刊)、『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館刊)など。
※週刊ポスト2019年5月3・10日号