中村さんが筆者に見せてくれた資料には、小さくではあるが、確かにその旨が記載されていた。だが、最初の営業電話では、そうしたことは一切告げられず、無料なのだからとにかく資料に必要事項を記載し送り返せとしか言われなかった。古典的ではあるが、今も詐欺業界では度々見かける手法そのもの。契約書には小さく記載はしてあるものの、その件については口頭で一切触れず、契約者の誤認を誘う方法に他ならない。

 そもそも、この三週間の間にX社からは何ら連絡もなく、店の求人広告がいつ作成され、どこに掲載されているのかも全く知らされておらず、お互いの同意もへったくれもない。X社が主張する“契約”が成立するのかすら怪しい、ずさんな方法であることは火を見るよりも明らかだ。

「電話口の担当者は以前とは打って変わって高圧的で…。言われた通りにX社のホームページを確認すると、確かにお店の求人広告が載っていました。それが証拠だから、金を支払えの一点張り。払わないなら弁護士、そして裁判所から連絡が行くぞと、脅されているように感じました。でも、おかしなこともありました。その広告の内容が、別の大手求人サイトに出した広告にそっくりだったんです」(中村さん)

 千葉県内の飲食店経営者(40代)も、X社から連絡を受け、中村さん同様に「無料の求人広告」を出した。X社のホームページには確かに求人広告が掲載されたが、普通のネット検索ではヒットしないような雑なページ作りが目についた。千葉県の求人と関西地方の求人が一緒くたにされており、これでは求職者が見てくれるはずはない。X社が本気で求人しようとしているのか疑わしいレベルだった。アルバイトを募集している店名の記載もなければ、詳しい住所も書かれていない。当然、広告制作前の店への「取材」もない。X社の求人広告を通じての問い合わせももちろんなく、広告出稿を忘れかけていた頃、やはり45万円の契約料請求書がFAXで届いた。

「金は払えないというと、担当者の態度が急変。契約に同意しているから、裁判してもあなたは負ける、裁判になると弁護士費用や迷惑料も上乗せされるから、今払ったほうが得だとまで…。息子がX社のことを調べると、同様の請求をされたという方が複数存在するみたいで、こちらも弁護士に相談し、静観しています。請求書が来てから一ヶ月以上経ちましたが、先方からは何の連絡もありません」(千葉県内の飲食店経営者)

 X社に電話で問い合わせたところ「事前に説明をしておりこちらに落ち度はない」の一点張り。X社のホームページを介して、実際にアルバイト契約が行われたことがあるのかを問い、広告媒体資料があるのであれば見せて欲しい旨を聞くと、電話は一方的に切られた。

 X社のホームページに無断で求人ページの文言や写真を「パクられた」大手人材会社の担当者は、前述した中村さんの例だけでなく、他にも複数の文言が勝手に転載されていることを認めた。その上で、次のように警鐘を鳴らす。

「人手不足の中小企業を狙った詐欺まがいの”求人広告話”を持ちかけてくる業者は増えています。無料話で客を釣り、詳しい内容を客に説明したり見せたりしないままに契約に持ち込むのです。実際にサクラのアルバイトを用意し、一週間程度働かせることで“契約成立金”を店からせしめた後、アルバイトを辞めさせるような悪徳業者もいます。成立金はアルバイトにも一部支払われ、求人広告業社とグルになっていることは明らか」(大手人材会社担当者)

 人手不足に喘ぐ中小企業経営者を狙い撃ちにする手法は卑劣という他ないが、手軽な手段で「人材を確保できる」などといった甘い話に乗るほうにも、問題がないとは言い切れない。人をケチれば金が消え、金をケチれば人は来ない。あたり前の論理がないがしろにされているからこそ、今日の歪んだ雇用情勢が生み出されたことを忘れてはならないのだ。

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