音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、前座噺を独特な爆笑編に作り替える三遊亭萬橘の“落語脳”についてお届けする。
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三遊亭萬橘が初のCD「三遊亭萬橘1」を出した。収録演目は『垂乳根(たらちね)』『井戸の茶碗』『寿限無』『らくだ』。『垂乳根』『寿限無』はどちらも前座噺だが、萬橘はこれらを独特な爆笑編に作り替え、落語ファンの度肝を抜いた。ドタバタ劇として楽しめる『井戸の茶碗』、オリジナルのサゲを考案した『らくだ』も秀逸。萬橘の非凡な「落語脳」を満喫できる商品だ。
これらは皆、浅草見番での独演会「四季の萬会」での高座。CDの発売元であるキントトレコードが萬橘の音源収録のため5年前から開いている会で、4月6日にはCD発売記念も兼ねた第19回「四季の萬会」が行なわれたが、そこで萬橘が演じた『中村仲蔵』が素晴らしかった。
萬橘はまず冒頭で『仮名手本忠臣蔵』五段目の現行演出を詳しく描写、それをこしらえたのが初代仲蔵であった……と本編に入っていく。
名題になった仲蔵が最初に与えられたのは、弁当幕と言われる五段目の斧定九郎。「こんな役」と腐っていると、女房に「どれがいい役だとか決めつけるのはあなたらしくない」と諭され、役作りに取り組む。