大塚さんは、京成電鉄の千住大橋駅近くで生まれ育った。子供の頃、京成の行商専用列車に誤乗しかけた経験がある。それ以降、行商専用列車に興味を抱くようになり、いつか行商専用列車に乗ってみたいと思い続けてきた。残念ながら、行商専用列車に乗車することは叶わなかったが、そうした体験がツアー行程を考える際に役にたっている。
鉄道ファンでもある大塚さんは、これまでにも旅客列車が走らない貨物線を体験するツアーを企画している。例えば、常磐線の金町駅と総武線の小岩駅を結ぶ新金貨物線は貨物専用線のために旅客列車は運行されない。そこを走る列車に乗ってみたいという気持ちから、貸し切り列車による運行を実現させた。
普段は乗車できない区間を組み込んだマニアックなツアーだったが、同ツアーは鉄道旅行協会の”鉄旅オブザイヤー2017″でグランプリを獲得。貨物専用線の体験ツアーが好評を博したことも、鮮魚列車の体験ツアー実現を後押しした。
「鮮魚列車は魚のにおいがつくため、専用車両で運行しています。現在使われているのは3代目で、1971年に製造された貴重な車両です。当初は2両で運行されていましたが、現在は3両編成になり、トイレもついています。衛生的な問題もあるので体験ツアーに鮮魚を積み込むことはできませんが、少しでも鮮魚列車の雰囲気を味わってもらえるように車内でチラシ寿司の弁当を食べることにしました」(同)
鮮魚列車を体験するツアーは、鉄道ファンを中心に旅行好きをも取り込んで大反響を呼んだ。そのため、6月に第2弾が催行される。そして、第3弾のツアー催行も内定している。
2018年に閉場した築地市場は、業界関係者が取引する場だった。しかし、2000年前後にセリが観光コンテンツとして注目されるようになり、それによって築地は一気に観光地化した。同様に、鮮魚列車ツアーもブームを巻き起こす可能性を秘めている。
また、昨今はトラックドライバーが慢性的に不足し、効率的に物資輸送ができる貨物列車が見直されている。それだけに、鮮魚列車や行商専用列車が再評価される芽も出てくる。
時代の変化は避けられない。鮮魚列車や行商専用列車が役割を終えて、歴史の表舞台から消えてしまうことに抗うことはできないかもしれない。それでも、多くの人に鮮魚列車を体験してもらうことで、歴史から消えようとしている鮮魚列車を後世に語り継ぐきっかけにはなるだろう。