数百年間を語る歴史動画、一本の再生時間は長い。それゆえ、動画の途中で入る広告も多い(有料サービスに登録すればなくなる)。一般的にこういった動画は視聴者から避けられるが、中田の動画には「歴史を学べる」といった効能を持つ。一度観ただけで全てを理解することが難しいため、よって何度も再生したくなる。ネタが尽きることもない、中田にとっても歴史動画は最良のコンテンツだ。
べしゃりつくす歴史動画は明快だ。冒頭に「今回、覚えて欲しいことはこの3つです!」とポイントを発表し、解説を始めていく。動画ではお笑いで授かったテクニックも披露。なかでも国同士を擬人化し、漫才的なやりとりをさせることが印象に残った。
たとえば、1929年に起きた世界大恐慌を解説するシーン。
ドイツ「アメリカさん、今月も融資お願いします……」
アメリカ「いや、それどころちゃうねん。ウチもお金ないんや!」
ドイツ「イギリスとフランスが第一次世界大戦の借金を返せって来ますよ!」
イギリス、フランス「お前ら、どうゆう騒ぎやっ!」
アメリカ「知るかー!もう今日からハンバーガーを買えへんほど金がないんや!」
と、一事が万事アッパーなテンションで中田は国になりきる。自身で消化しているからこそできる遊び。こんな動画を毎日更新しているから脱帽。流石!受験勉強の勝者である。情報を仕入れ、まとめるスピードが早い。
中田の動画には学ぶ楽しみと同時に「知らないことは恥ずかしい」といったメッセージも込められている。
僕の知人でミュージシャン志望の男がいる。彼は音楽をあまり聞かない。ゆえに少し変わった試みをしては「世界初の音だ!」と大喜び。その様子を見るたび僕は「それコーネリアスが2000年代前半にやったのになぁ……」と呆れる。情報化社会で情報を持っていないことは危険だ。
また、授業を聞いていると中田は知識を“啓蒙”することにかなりの興味を持っていることがわかる。この強い自我こそ他の教育系YouTuberと一線を画す部分。よって、ひとえに教育系といっても毛色が全然違う。
教育系動画の大半は学習塾が主宰し、受験勉強のためのノウハウが詰まった内容。しかし、中田の授業はすぐに受験で役立つような動画ではない。あくまでも知るキッカケとして機能している。そして、鑑賞後に後を引くのが中田の凄み。知性をおすそ分けされたような気分に……、端的に表せば「あっちゃんカッコイイ!」ということなのだろう。
『中田敦彦のYouTube大学』には、オリエンタルラジオのリズム芸『武勇伝』に通ずる中田の“啓蒙”が込められている。オリエンタルラジオによる音楽グループRADIO FISHの『PERFECT HUMAN』も同様。「I’m a perfect human.」、歌われるのは中田を讃える内容だ。
中田は歴史から学んだ理屈を披露し、その結果を作品として世に発表している。漫才、歌、YouTube、どれも正しい理屈でバズに導かれている。そして、全てに“啓蒙”という共通点がある。
これまでのYouTuberは、知識量よりも行動力で中高生の人気を集めていた。大人の視聴者が増えた今、新しいYouTuberに求められるのはその逆で。歳を重ねれば、行動力は減退するが知的好奇心は向上していく。今後、中田のように確かな情報と明確な思想を持った教育YouTuberが増えていくことは必至である。
●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)